肥満対策

運動による熱量消費は少ない

太っていればいるほど血圧が高くなり、体重を減少させると血圧が下がることは周知のとおりです。そして、肥満を解消するために運動が必要だということは誰でも知っていることですが、実は、運動で消費する熱量というものは、消耗すべき脂肪組織のもっている熱量に比べたら、まったく微々たるものなのです。

よく、「ひと汗かいて体重が1kgも減った」ということを言う人もますが、これは、脂肪が1kg減ったという意味ではありません。間違いです。

体重が増減する要因についてしっかり理解するには、栄養学の原点に戻らなければなりません。
脂肪1gのもつ熱量は9kcalです。そして脂肪組織は、脂肪90%、水10%で構成されています。つまり、脂肪組織を1kg消耗するには、98kcal×(1000-100)=8100kcalの負荷をかける必要があるのです。

日本の成人は、だいたい1日に2100kcal摂取していますがが、この計算でいくと、3日間絶食したところで、脂肪組織の消耗は1kgに達しません。

こんなに莫大なエネルギーをもっている脂肪組織のことですから、ちょっとやそっと運動したからといって、簡単に減るはずはないのです。

たとえば歩くことで脂肪組織を1kg減らすには、早足1.5km歩いても100kcalの消費にすぎませんから、計算すると120kmも歩き続けなければならないのです。

これは、東京を起点として、北は渋川か水戸、中央道なら山梨市、東海道では沼津までの距離に当たります。つまり、「ひと汗かいたら体重が1kg減った」というのは、体内からその分の水が減ったという意味にすぎないのです。

ダイエット中にイライラするのは?

肥満解消と一言で言ってもなかなか一筋縄にはいきません。ダイエット中のイライラもそのひとつかもしれません。

運動をすると基礎代謝が亢進する

実際のところ、運動で肥満が改善するのは、運動自体の熱量消費による結果ではありません。汗水たれる運動をしたあとは、基礎代謝量が数日、克進しっぱなしになるというところに、運動の効果はあるのです。

基礎代謝というのは、人間が生きていくための必要最小限度の熱量で、じっと安静を保っていても消耗する熱量です。運動をすると基礎代謝の亢進による熱量の消費が大きくなる、つまり、1回の運動だけで消費される熱量はわずかであっても、日ごろ運動している人は、からだに「熱量の消費の習慣がつき、ことさら運動をしないでも、たとえば眠っている間でも、余分な熱量が体外へ逃げていくというわけです。

基礎代謝の亢進はどの程度かというと、運動後15時間は25%増しになるとか、運動後6時間は21%増しになるとかいろいろな説がありますが、20%増しと仮定して、8時間の睡眠中に、運動した人は200kcalも余分に消耗する計算となります。

これは3kmの歩行と同じ熱量です。運動が肥満是正に必要な理由はここにあるのです。それも、汗水流す運動ほど基礎代謝の亢進には有効なのですから、この点をよく心得ることがたいせつです。

散歩程度の運動負荷では、毎日6kmほど歩く必要がありますが、テニスや水泳で、ひと汗もふた汗も流す運動なら、1一週間に3回もやれば十分だという調査結果も知られています。

また、食事前後に運動をすると、食事前後でとった熱量が体内にたまりにくいことも知られています。

この逆、つまり夕食後、テレビを見ながら横になるというのは、太っている人にとっては禁物ということでもあります。

いったん身についた脂肪は、とるのがたいへんです。食べたものが脂肪としてたまる前に使ってしまいましょう。それには、食後に軽い散歩をするのがいちばんです。昼食後の腹ごなしとして、20~30分も歩ければ理想的です。

運動

運動をすれば血圧は上昇する

肉体労作をすれば血圧、脈拍ともに上昇します。同じ運動量を負荷したときの血圧値や脈拍数の増加は、高齢になるほど、程度も大きくなるものです。
しかも同じ年齢でも、高血圧の場合は正常血圧に比べて血圧や脈拍の増加は大きいのです。これは、活動中の筋肉がより大量の酸素を消費しているため、十分な血液を供給する必要があるからですが、その結果、肺と心臓はそれだけ負担を受けることになります。
このことから、かつては、ふだん血圧が高い人や、心臓の冠状動脈に硬化がある人は、なるべく安静にしているべきだという考え方をしたものです。

日頃から体を動かす習慣があれば

心筋梗塞にかかりにく

しかしその後の調査では、よくからだを動かしている人は、あまり動かさない仕事の人に比べて、心筋梗塞にかかりにくいことがわかってきました。

たとえば、ロンドンのバス会社の調査では、運転手のほうが車掌より高率に心筋梗塞をおこすことが知られています。これは、車掌は二階だてのバスを昇ったり降りたりしているのに対して、運転手は座ったままで、しかも交通事情の悪い市内をストレスだらけで運転しているという点に、違いがあるのだろうと推測されています。
米国の鉄道職員の調査でも、からだを動かさない事務職は、保線区手の二倍も多く心筋梗塞にかかることがわかりました。

動脈硬化が進みにくい

実際に冠状動脈の狭窄度を測定した研究によると、労働している60歳代の人は、冠状動脈が75%以上も狭くなっているものは34パーセントですが、運動不足の人では50%もいるのです。
これは、労働していると、冠状動脈硬化が進みにくいことを示しているのです。

心臓に負担がかかりにくい

ところで、ふだんよくからだを動かしている人の血圧値や脈拍数は、安静時はもちろんのこと、運動したときもあまりふえないということが知られています。

この点について高血圧の人を2群に分け、一方は自転車による運動訓練を、1回60分当て週3回ずつ行い、一方はあまりからだを動かさない生活を続けて、10週間後に血圧値を比べた研究がありますが、その結果は、運動訓練を行った場合は、最大血圧も最小血圧もみごとに下がりました。

高血圧症の危険な合併症である心筋梗塞が、運動している人に発生しにくく、その1つの理由として、冠状動脈硬化が運動している人には進みにくいことは説明したとおりですが、もともと心筋梗塞という病気は、心筋の酸素需要を満たすだけの血液が供給できない結果おこるのです。この血液は冠状動脈を通って心筋へ供給されるのですから、冠状動脈の硬化が進んでこなければ、それだけ安全というわけですが、実は運動訓練をした心臓は、同じ負荷の運動に際して、鍛練していない心臓よりも酸素消費が少なくてすむのです。つまり狭心症や心筋梗塞にかかった場合のリハビリテーションとして、運動訓練が重要視されている理由もここにあるのです。

要するに高血圧の人にとって運動訓練は、ふだんの血圧を下げ、労作のときの不慮の血圧上昇を防ぐうえで非常に有効なのです。

運動は心臓を強くする

同じ仕事をしても、日ごろ運動でからだを鍛えている人の心臓は、酸素をあまり消費しません。その理由は、心臓自体にあるのではなく、鍛練した筋肉にあるのです。

運動や肉体労作をすると、新陳代謝が増加した筋肉系へ十分な血液を供給するため、心臓の活動が盛んになります。こうして運動や肉体労作をくり返し行っているうちに、鍛練された筋肉は、血液のなかから、より有効に酸素をとり込むコツを覚えるのです。
つまり、筋肉の新陳代謝が増加しても、それに必要なだけの酸素をとり込むのに、そんなに多くの血液はいらなくなるのです。ということは、それだけ心臓の負担も少なくてすむという結果になります。これがトレーニング効果です。

同じ仕事をしても、日ごろ運動をしている人は、血圧値も脈拍数も、あまりふやさずにすみます。なお運動訓練は、1週間に1度や2度やっても効果はあがりません。
せめて週に3回は必要です。歩行という軽い運動なら、毎日、それも6kgぐらいは歩かないと効果は得られません。

運動の効果

運動訓練を続けていると、血圧や脈柏のほかに、血液の脂質が改善します。つまり、血清の総コレステロール値やLDL( 悪玉)コレステロール、中性脂肪は減り、HDL(善玉)コレステロールがふえてきます。このことは、血圧が下がることと相まって、粥状硬化症の進展に歯止めをかけるのです
HDL・LDLコレステロールについてはこちら。

また血液が血管内で凝固しにくくなけっせ人りますから、血栓症をおこしにくくもこうそくなります。これは、脳梗塞や心筋梗塞の予防にたいへん重要なことですが、心筋梗塞の予防については、さらに冠状動脈のバイパス(副血行路)が運動で発達してくることも関係しています。

血圧の高い人が運動をするメリット

  • ふだんの血圧が下がる
  • 肉体労働をした際に血圧が上昇しにくい
  • 血液の凝固性亢進がおさえられ血栓が溶けやすくなる
  • 糖の代謝異常が是正される
  • 冠状動脈のバイパスが発達し心筋梗塞にかかりにくくなる

高血圧の人に最適な運動

運動であれば、どんな運動でも健康増進に役立つと考えるのは間違いです。筋肉を鍛練すれば確かに筋力は増大しますが、高血圧の人が必要な運動というのは、筋力をつけることではなく、血圧を下げ、脈拍数を減らし、心筋梗塞を予防するところに目的があるのです。

ということになると、同じ運動でも、これにかなったものもあれば、一方で、この目的には合わないものもあるのです。どんな運動が適しているのかというと、水泳、テニス、体操などの全身運動や手足を屈伸させる種類のものがよいのです。
ジョギングや自転車こぎといった、主として下肢の運動も向いています。これは、下肢のほうが上肢よりも筋肉が多いので効果があがりやすいのです。ともかく、筋肉を収縮させて手足をよく動かすことが重要です。これらの運動は、筋肉に力を入れたとき、筋肉の長さは、伸びたり縮んだりしており、筋肉自体の緊張度は変わりがありません。これを等張性収縮と呼びます。

避けたい運動

力がいるわりに動きが少ない運動

同じ筋肉の運動でも、筋肉は緊張するが筋肉の長さは変わらないタイプのものがあります。これは等尺性収縮と呼ばれ、筋肉は突っ張っていても、手足は屈伸しないという状態です。たとえば、鉄棒でひじを曲げてじっとからだをつり上げているときや、重量挙げで両腕を上げながら重みに耐えているとき、エキスパンダーを伸ばしっきりで支えているとき、水の入った重いバケツを運ぶとき、これらはすべて、筋肉の等尺性収縮運動です。

この筋肉の等尺性収縮では、血圧値も脈拍数もふえますが、特に最小血圧の上昇が大きいという特徴をもっています。一方の等張性収縮では、脈拍数の増加と最大血圧の上昇は大きいのですが、最小血圧の上昇は軽度という特徴をもっています。しかも等張性収縮の運動訓練を続けているうちに、脈拍や血圧の変動はしだいに軽度になってくるという効果があります。

ところが、運動訓練による脈拍や血圧変動の抑制効果は、等尺性収縮による訓練ではおこりません。つまりこの種の運動は、ボディビルの目的ならいざ知らず、高血圧や心筋梗塞のリハビリテーションには使えないのです。

ところで、日常生活のなかで、等尺性収縮を伴う動作がいくつもあります。たとえば、こぶしをぐっと握る動作がそうです。また、ふとんを運ぶ動作も同じです。大きくやわらかいふとんとなると、力をこめてしっかり握らないと落ちてしまいます。このとき、力をこめて握ったというだけで、血圧や脈拍の揺さぶりは大きいものです。朝のふとんの上げ下ろしのときに、狭心症をおこす人がいるくらいです。

団体競技

バレーボールやサッカーなどの団体競技は、健康な人や、合併症のない高血圧の人は別として、脳卒中や心筋梗塞のおそれのある場合は、避けたほうが安全です。というのは、チームが勝つためには、自分を犠牲にしてまで無理をする必要があるからです。

姿勢と血圧

急に立ち上がると血圧は上昇する

人間は重力の関係で、立った姿勢でいると血液が下半身にたまります。横になっているときに比べると、500~750mlも多くたまります。
これ以上の血液が下半身にたまらないのは、交感神経が緊張して下半身の静脈が収縮し、たまった血液を心臓へ押し返すからです。
つまり、脳という重要な臓器の血流量が減らないように、手足の血管も内臓の血管もいっせいに収縮するわけです。それにしても循環血液量はたかだか5Lですから、立っているときに下半身に血液が500~750mlミもたまるということは、心拍出量を10~15%も減らしてしまうはめとなり、このままだと血圧もそれだけ下がってしまいます。

それをくい止めるために、動脈系は必死で収縮します。つまり横になって休んでいるときは無理な血管の収縮機構がないので血圧は下がっていますが、休んだあとで急に立ち上がると、最大血圧はやや下がったところで、最小血圧はやや高まったところで安定します。

ただ若い人と違って高齢者では、この下肢の血管反射が鈍っているために、最大血圧の下がり方はやや大きめです。つまり、血圧がストンと下がるために、立ちくらみをおこすことが多いので注意を要します。

危険な立ちくらみ

一般に、立ったときの最大血圧が15mmHG以上も下がったり、立ち上がってから30秒たっても最小血圧が上がってこないという場合には、起立性低血圧と呼ばれます。起立性低血圧がおこっても、脳の血液循環に支障をきたさなければ、特にめまい感などの自覚症状はおこりませんが、

起立性低血圧は、けっしてふだん低血圧の人にだけみられるものではなくて、高血圧の人にもみられます。特に、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧などの症候性高血圧症では、起立性低血圧をおこしやすいのが特徴で、診断の手がかりとして重要所見でもあるわけです。

さてここで問題となるのは、交感神経を抑制する作用機序をもつ降圧剤が、起立性低血圧という副作用をおこす場合があるという点です。ですから、こういう種類の降圧剤を内服している場合は、横になっているときや腰かけているときの血圧値だけでなく、立っているときの血圧をはかってもらうことがたいせつです。特に、立ちくらみという症状をもっている人は、主治医にその旨を伝えることを忘れてはいけません。というのは、脳の動脈硬化がある程度進んでいるときは、こうノてく立位で血圧があまり下がると、脳梗塞をおこす危険があるためです。

メモ

急に立つと、最大血圧が下がるために一瞬くらっときます。健康な人は、手足の血管が反射的に収縮してすぐ元の血圧に戻ります。動脈硬化が進んでいる人は、こんなときに脳梗塞や心臓発作をおこすことがあるので要注意です。

睡眠・休養

睡眠中は血圧が一番低い

血圧は、一定の値を保っているわけではなく、1日のうちでも大きく変動しており、特に精神的・肉体的ストレスが加わっている間は、いつになく高い値を示します。そして、血圧が高ければ高いほど動脈壁の負担が大きくなり、長い経過のうちに、動脈の傷みが進行して、いずれは脳や心臓、腎臓の障害がおこってきます。

このために高血圧は早めに治療する必要があるわけですが、日常生活のなかでも、心身ともにリラックスすれば、血圧を下げることができます。

血圧の高い人にとって、リラックスできる時間をもてばもつほどいいのです。

たとえば不安定に血圧が上がっていても、横になって休んでいると、血圧はしだいに落ち着いてきて、30分もすると眠っていなくても最大血圧が15mmHG~20mmHGも下がるものです。しかもふだんの血圧が高い人ほど、この降圧程度は大きいのです。

ということは、会社の休憩時間を有効に利用して、不安定に上昇した血圧を、20分でも30分でも横になって下げておいたら、それだけ血管の傷みは少なくてすむはずです。

もちろん睡眠時間を十分にとることは、高血圧の人にとっては重要なことです。これは、平均した血圧の値が、睡眠中はいちばん低いからです。仕事をして血圧が高くなり、そのために傷んだ血管が、この睡眠中に修復されるのですから、睡眠という自然の療法をないがしろにしてはいけません。

もともと睡眠量というものは、睡眠時間だけで決まるのではなく、睡眠の時間と深さを掛け合わせた量なので、深い眠りができる人は、睡眠時間が多少人より短くても、十分な睡眠量をとることができます。しかし高血圧の場合は、血圧が下がっている時間が長ければ長いほど、傷んだ血管の修復が十分にいくわけですから、できるだけ睡眠時間は長くとりたいものです。

血圧を下げる睡眠法

床についてもなかなか眠れず、夜間も時々目がさめるという人がいますが、これはからだが疲れていない場合や、神経の高ぶりをおさえる自然の作用が十分に働いていないときの現象です。

日ごろ、仕事もせずに、脳と口だけしか動かしていない人にありがちな現象ですが、ここは、日中にからだをよく動かすことがたいせつなのです。

神経質で寝つかれないというときは、就雇前にぬるめのお湯につかり、副交感神経の緊張を高めるのもよいし、酒好きの人であれば、就最前に軽く1杯やるのもよいでしょう。

ところで睡眠中の血圧をみると、一様に下がっているのではなく、やはり刻々と変動しています。電話のベルをはじめ、神経をいらだたせる雑音が聞こえたり、電灯の光が閉じたまぶたを通して網膜を刺激したりすると、眠っていて意識はしなくても、血圧はびっくりするくらい急上昇します。
この際の血圧上昇は、降圧剤でふだんの血圧が下がっていても、くい止めることはできません。つまり上手に静かな睡眠をとるためには、騒音や光刺激が寝室をおかさない工夫が必要です。

まっ暗な部屋が嫌いなら、豆ランプは天井ではなく足元につけるようにし、雨戸がなければ窓にブラインドをつけるという、ちょっとした知恵が、健康を保つコツになります。
こちらも参考になります。快眠のコツはリラックスすることです。

睡眠一口メモ

睡眠中は、血圧を下げます。軽い高血圧の人なら、日中は血圧が高くても、睡眠中は健康な人と同じ血圧値に下がります。
治療中をみると、日中120~140mmHGの血圧が、睡眠中には100mmHG以下になるのが一般的です。24時間、血圧を測定すると睡眠中に時々、上昇していることがわかりますがこれは、、大きな物音がして血圧が急上昇したものです。静かな環境ではどよく熟睡するのが、上手に血圧を下げるコツです。
旅行に行ったり、入院したときによく眠れないときは血圧が揚げっている場合が多いので血圧が高めの人は十分に注意します。

入浴

お風呂は血圧によくないの?

高血圧の人が浴室で脳卒中をおこすことがあります。このために、「高血圧者に入浴は危険だ」と思っている人もいるくらいですが、実はおふろで事故がおこるのは日本だけで、欧米ではこのようなことはないのです。

つまり、入浴自体が悪いのではなく、入浴のしかたそのものに問題があるのです。欧米ではからだを横たえてお湯につかるのに、日本ではかがみ姿勢で腰を浮かしてお湯につかります。

浴槽が深いほど、水圧がかかり、血圧も上がってしまうのです。もう1つの違いは、お湯の温度です。欧米では浴室が居間と同じ温度で寒くないために、熱いお湯に入る必要がありません。しかし日本では、寒さをカバーするために、熱いお湯でからだが冷えないようにしているのです。体を温めるために熱いお湯に入るということです。

熱すぎるお湯は有害

熱いにしろ、寒いにしろ、いずれも皮膚を刺激すると血圧が上がります。皮膚を刺激しないお湯の温度とは、理論的には体温に近い温度ということで、37~38度というところです。

皮膚が熱いお湯や冷たい水などの刺激を受けると、すぐに血圧が上がります。浴槽につかったとたん、血圧が上がっても、そのうち、からだ中の血管が開いて血圧が下がります。高血圧の人は、熟すぎるお湯と、最後の水かぶりは禁物です。

浴室が冷えきっていると、裸では寒さが身にしみますから、どうしても熱いお湯にからだを沈めて温めようとするわけです。このように熱いおふろに入る習慣が、いつのまにか身についてしまい、冬だけではなく、夏も熱いお湯につかるようになり、おふろとは熱いのが習慣化してしまているのです。

たいていの人は42度以上のお湯につかっているようですが、お湯の温度が42度以上に達すると、皮膚をお湯につけただけで血圧は上昇します。そしてお湯につかっているうちに、全身の血管が開いて、血圧が下がります。からだに熱がこもるにつれ、皮膚の血管が開いて放熱しようとするのですが、体温より高い温度のお湯につかっているからには放熱しようがないし、血圧はどんどん下がってきます。

このままではのぼせてしまうわけで、いい加減なところで浴槽から飛び出し、からだを洗うことになります。ところが洗い場が冷えているために、今度は血圧がしだいに上がってきます。そして寒さを覚える程度までにからだを冷やしてしまうと、血圧は当然のことながら、いっそう高くなっていきます。

脳や心臓の動脈が傷んでいる人では、こんなふうに血圧を上げたり下げたりしているうちに、事故をおこしかねません。ではどうすれば血圧の揺さぶりが防げるでしょうか。

それは、前もって浴室をストーブで暖めておくことです。こうすれば、無理して熱いお湯につかる必要はないのです。浴室の温度については、冬と夏とで快感温度は違いますが、冬のからだは寒さになれていますから、40度前後にしておけば、裸になっても寒く感じません。浴室を暖めておけば、お湯の温度が皮膚を刺激しない程度でも寒くありません。

ただ日本人は、子どものころから熟めのお湯に入りなれているため、37~38度のお湯では物足りないことが多いので、39~40度というところが適当でしょう。

よく、浴室が湯気でいっぱいだから暖かくなっていると考える人がいますが、この湯気こそ寒い証拠なのです。夏には湯気が立たないことを思い出してください。つまり、浴室が冷えているからこそ、水蒸気が凝結して湯気になるのです。

血圧が高い人はこれだけは守る

まず面倒がらずに、寒暖計と湯温計とを用意します。寒暖計では浴室の温度を20度前後に、また湯温計ではお湯の温度を40度前後に管理することです。
こうすれば、入浴による温度の害は避けられます。

次に水圧の害ですが、日本式浴槽に身を沈めるときは、首まで深くつからないで、せいぜい肩が沈むか沈まぬか程度にするのが賢明です。

浴槽の底にお尻をつけて坐るのなら、お湯の量を加減する必要がありますが、適当な腰かけ台を使うのもひとつの方法です。「お年寄りに新湯は毒」とよくいわれます。これは一番湯ほど肌にチリチリして、皮膚を刺激するという意味では感心できないからです。

浴槽のお湯揚は、人が入っているうちに、皮膚の脂肪や有機物で適当にやわらかくなりますから、日ごろ血圧が高い高齢者は、二番湯以降がからだにはよいのです。しかし、バスクリーンなどの入浴剤を入れれば、問題はありません。

ぬるめのお湯は血圧を下げ続ける

熱いお湯に入ると交感神経が緊張し、筋肉も締まり、活動力も増します。これは、昔、江戸の火消衆などが利用した朝湯の効果です。

高血圧の人がこれをまねしてはいけません。熱いお揚に対してぬるめのお湯は、副交感神経が緊張しますから、神経のイライラを解消し、血圧も下がって催眠効果も出てきます。また、肩こりや腰痛などといった筋肉の疲れもとれるものです。この効果は、湯ぎめをしないかぎり、2時間も続きます。特に皮膚の血管を開く効果の大きい炭酸泉につかった場合は、血圧を下げる効果が数時間も続くことが知られています。半身浴は血圧をさらさらにします。

トイレ

寒さだけでない

日本では、寒い冬の間にトイレの中で脳卒中をおこす人が少なくありません。一般の家庭では、居間は暖房で暖かくしてあっても、トイレまで暖めているところは少数です。
セントラルヒーティングのマンションでもないかぎり、トイレは冷えきっているものです。トイレで脳卒中をおこすのは、下半身を寒風にさらす結果、血圧が上がるからだと単純に考えている人が多いようですが、トイレと血圧との関係は、単に寒さだけではなく、もっと複雑なのです。

いきみ動作が危険

ここで、排便時のいきみ動作が血圧にどんな影響を与えるのか考えてみましょう。まず、いきみはじめると同時に、血圧が急激に上昇します。これは、いきみ動作で胸腔内圧が上昇するため、肺内の血液が、いっせいに左心房を経て左心室内へ押し込まれ、左心室内の血液量がいっぱいになるからです。

つまり肺は血液をいっぱい含んだスポンジのようなものですから、これを外圧でつぶすと、肺内の血液が一気に心臓へ送り込まれるわけです。そして左心室が収縮すると同時に大動脈へ押し出される血液量が多いために、これが、急激な血圧上昇に結びつくのです。

もし高齢者で大動脈の伸展性が低下している場合は、このときの血圧上昇はいっそう著しいものです。次に、いきみを続けていると、上昇した血圧はしだいに落ち着き、最大血圧と最小血圧との差( 脈庄)はかなり小さくなります。

これは、胸腔内圧がプラスになっているため、胸腔内へ静脈血が還流しにくくなり、したがって心臓内の血液量が少なくなってきますから、心臓が収縮しても、送り出される血液量も減るというためです。

ここでからだは、血圧低下を防止するために、反射的に末梢の血管を収縮させ、これ以上血圧が下がらないように歯止めをかけます。

ただ、高齢者では、この血管反射機能が鈍っているので、血圧低下の歯止めがうまくかからない場合があります。ところで、いきみを中止して息を大きく吸った直後は、血圧が突然下がります。これは、今まで胸腔内圧がプラスのために押しつぶされていた肺が急にふくらみ、静脈血を肺内にプールするため、左心室へ向かっての血流が、一瞬さらに減るためです。
末梢血管の収縮状態はしばらく続いたままですから、最大血圧も最小血圧も、いきみ前の状態より高めに維持されます。

この血圧上昇は、脈拍調節機構を興奮させ、脈拍数は減ります。ただ高齢者では、血管反射機能の低下のため、血圧の上昇程度は弱いものです。いずれにせよ、いきみ動作時の血圧変動は急激であるだけに、脳や心臓の事故をおこしかねません。

尿意の我慢は血圧を上昇させる

動物実験で尿道から生理的食塩水を押し込んで膀胱壁を緊張させると、血圧は急速に上がります。このように膀胱壁が伸展されると血圧が上がることを膀胱反射と呼んでいます。

ところが膀胱にたまる尿は、片側の腎臓から、1分間に1mlという割合で分泌されてくるので、自然状態では、膀胱が急激にふくらむことはありません。
つまり血圧がひどく上がる直前に、血圧調節機構の働きで末梢の血管が拡張し、これによって血圧上昇はごく軽度にとどまっているわけです。

ところで、膀胱をパンパンに張らしておいた状態で排尿すると、膀胱反射による血圧上昇機構は解除されるのに、血圧調節機構の働きでおこった末梢血管の拡張状態は、しばらく続いているために、排尿直後には急激な血圧低下をおこしやすくなっています。排尿中に武者ぶるいを覚える人がありますが、これは血圧低下を食い止める手段でもあるのです。

ときに排尿失神をおこす人もいるくらいです。この排尿による血圧低下は、男性に限ったことで、女性にはみられません。その1つの理由は、女性の排尿が、腰かけるか、かがみ姿勢であること、もう1一つは、女性は男性と違って、膀胱壁を張りつめるほどの尿をがまんすることができないためです。
この排尿時の血圧変動は、男性でも昼間はおこしにくいものです。昼間は、これほど極限まで尿をためることがないからです。冬、寒いトイレに起きるのが面倒くさいと思って、就床中に尿意をがまんし、ついにがまんしきれなくなった結果、トイレで事故をおこすというわけです。

危険を避けるトイレ対策

トイレで脳や心臓の事故をおこすのは、日本だけにしかみられません。これは、血圧の高い人にとって、排泄そのものが危険だという意味ではなく、排泄への工夫が足りないことを教えているのです。

尿意 を我慢して膀胱をい っぱ いにしておくと、血圧が上がります。この後、排尿すると、血圧が一気に下がります。この血圧の変動は、立ったまま放尿する男性に特に著しいものです。動脈硬化が進んでいる高齢者は、洋式トイレで腰かけて排尿したほうが安全です。

まず排便については、日本式のしゃがんでいきむというところに問題があります。しやがんだ姿勢では、いきみ動作で腹庄が大きくかかりますから、それだけ血圧の変動も大きいのですが、

洋式スタイルの腰かけ便器の場合には、これが防げます。つまり、腹庄をかけにくくすれば、いきみ動作のときの胸腔内圧増加が最小限度におさえられるので安全なのです。また、ふだんの食事の工夫などで、便がかたくなりすぎないように注意することもたいせつです。「脱・便秘」のための食物繊維の基本などが参考になります。

またトイレの保温が不可能であるかぎりは、寒い夜間のトイレ通いは避け、昼間の暖かいうちにすませておくよう、習慣づけるには、夕食後の飲水量を減らす工夫もありますが、いちばん悪いのは、寝室が冷えきっていたり、寝具が不適当のため、寝ているとき、からだが暖まらないで冷えてしまうことです。

からだを冷やすと、脳下垂体からの抗利尿ホルモンの分泌が減りますから、どうしても尿量がふえてしまいます。電気毛布などで就寝前に寝具を暖かくしておいたらいかがでしょうか。ただし就床時はスイッチを切るか、いちばん弱くするかしてください。こともたいせつです。寒い冬の時期の寝具などが参考になります。

夜間の排尿については、特に冬はシビンを用意して、寝室で用をたすようにするのが得策です。シビンも、むきだしにしないで、適当なカバーをかぶせるなり、ふたをつければ、けっして見ばえの悪いことはありません。

通勤

起床~家を出るまで最低1時間の余裕をとる

昔、戦に出る大将は、しかるべき儀式をすませ、心身ともに張りつめて出陣ました。江戸の職人も同様で、朝ぶろで心身をひきしめてから、その日のかせぎに出かけたものです。
こうしたことをしないとよい仕事なんてできるわけはありません。

朝、起床してから洗面、着がえ、食事、排便、朝刊へ目をとおす。こうした一連の朝の習慣をこれだけで1時間はたっぶりとってほしいのです。

理想をいえば、ふだんの運動不足を補うために、朝のジョギングや体操をする時間もとれれば尚いいでしょう。
目がさめてから胃が食事を受け入れるまでには、ある程度の準備時間が必要です。しかも食後20分ほどは、胃の消化活動のため、激しく動き回ることをひかえなければなりません。
つまり、朝、家を出てから、朝食まで20分、朝食に20分、排便に10分と計算すれば、もうこれだけで50分です。これをぎりぎりまで布団やベッドに入っていて、一刻も早く出勤しようとすると、胃が目をさましきっていないのに、無理に短時間で朝食をすますというはめになりますから、朝食の消化は悪いし、食べ残しをしたとなると栄養のバランスは狂ってしまうし、おまけにトイレ時間がなければ、急いでいきまなければなりません。日ごろ血圧の高い人が、朝からセカセカ、イライラでは、いったいどうなってしまうのでしょうか。

通勤時間には特に余裕をもつ

家を出てから、バス停までかけ足、駅の階段もかけ足というのは、食後30分もたっているのならいざ知らず、からだによいはずはありません。ゆっくりと余裕をもって歩きましょう。

マイカー通勤にしても、運転するだけで血圧が上がるものです。会社へ着くまでにストレスで身をけずったら、それこそ大損です。
要するに、通勤時間で5分、10分の差をかせぐためには、極端なストレスを受けるのです。むしろこの5分、10分は、就寝時刻や起床時刻でかせいでおくほうが、健康にはとても有利だということです。

7~8じ時間の睡眠が10分や20分短縮されたところで、健康に有害なはずはないでしょう。むしろ、出勤前のイライラのほうが、どんなに健康に、血圧に、そしてコレステロールに有害であるかなのです。

仕事

生理的リズムに合わせるのが最適

からだには、生体のもつ自然のリズムというものがあります。人間の活動能力を支配しているのは、交感神経や脳下垂体・副腎系の働きによります。
これが昼間は働いて夜は眠るという、ごく自然の生活習慣の場合にはどうなっているのでしょうか。これは、血液中の副腎皮質ホルモン( 血中コルチゾール) の量をはかるとわかります。

午前9時ごろが1日のうちでいちばん活動的な条件にあり、午後からは機能が低下しはじめ、睡眠中は最もリラックスしています。そして、朝、日がさめる2~3時間前から機能が急速に増加してきます。いっぼう血圧のほうは、副腎皮質ホルモンがいっせいに分泌している午前9時では、1日のうちでピークに達しますが、午後5時以降になると下がりはじめ、睡眠中はいちばん低くなるのです。

つまり、自然のリズムからいうと、午前9時から午後5時ぐらいまでが、最も生体は活動に適しており、この時間帯に仕事をするのが、いちばん能率が上がるというわけです。

同じ仕事をするなら、この能率よい時間帯を利用するのが得策です。それを、出勤して無駄に時間を費やし、「仕事がしきれなかったら残業すればよい」などとたかをくくっていると、あてがはずれます。

午後5時以降の生体の能率は低下してきますから、うまいぐあいに仕事が進むはずはないのです。それも無理をすれば、ストレスが加わりますから、副腎皮質ホルモンの分泌もふえ、血圧も上がり、そのときは仕事も片づくかもしれません。

ふだん忙しくて、勤務時間内に仕事が終わらず、残業の連続の人は、なれという現象でなんとかよい仕事もできることでしょうが、日ごろ残業になれていない人の場合は、こんな異常状態が2日も3日も続いたら、ストレスの塊でクタクタになるのは必定です。
要するに、1日の仕事は勤務時間内に終わるように、計画を立てて働くことが、健康にもよいのです。

肉体労働がきついとき

昔は、重労働をすると血圧が上がり、脳卒中がおこりやすくなると考えられた時代があります。それは、日本の農村地帯に高血圧や脳卒中が多発していたこと、特に脳卒中が多い秋田県の特徴の1つに、1人当たりの耕地面積が広いという点が注目されていたからです。

しかし現代流に考えれば、からだをよく動かしている人の血圧は低く、また同じ高血圧の人でも、運動訓練によって血圧が下がるということが知られています。
したがって、肉体労作業に従事するからといって、それ自体が高血圧や脳卒中をもたらすことはないのです。

欧米では、肉体労務者は心筋梗塞にかかりにくいという点を注目しています。ただし、労働が激しい場合は、食事のとり方に気をつけなければなりません。

多くの熱量をとらなければならないために、どうしても主食偏重になってしまい、栄養のバランスがくずれてしまいがちです。それに発汗が多いので、食塩を多めにとってしまうことも血圧には悪条件ですから気をつけましょう。労働量に見合うたんばく質を十分補給しさえすれば、からだは耐えられるのです。

ストレス・性格

少々の緊張でも血圧は上昇する

精神的にも肉体的にも、ストレスが加わると血圧は上がります。医師であれば深夜の電話ベルとか救急車の警報で実に神経がいらだつものですが、ウィーンフィルハーモニーの常任指揮者でもあっ方のお話によれば、新幹線の車内放送を知らせるオルゴールが、音楽家の神経をさかなでするそうです。

ネコはネズミの声にいきり立つし、イヌは自分以外の尿臭を電柱でかぐと興奮します。そういうわけで、ほかの人には気にならないことが、自分には気になる、イライラするということが多数あります。

そしてこういったときの血圧は当然のことながら上昇するわけですが、ふだんそんなに気にさわるという問題でもないのに、精神的に緊張すると、それだけで血圧は上がります。

たとえば、買い物のときのお釣りの暗算とか、気がねする人と会話を交すときがそうですが、ふだん血圧が高い人ほど、そのときの血圧上昇は大きいのです。

ストレスをおこしやすい性格

同じ強さの刺激でも、ストレスをおこしやすい人と、そうでない人があります。A型性格がストレスに弱いことがよく知られています。しかし実際に高血圧の人をしらべてみると、必ずしもA型性格の人が多いというわけではありません。

それにしても、A型性格の人はストレスを受けやすく、ノルアドレナリンという興奮性のホルモン分泌がふえます。これは血圧を上げ、コレステロールをふやすだけではなく、血液の凝固性も高めまこうそくすから、心筋梗塞にかかりやすいと警告されています。

一般に医師はA型性格が多いのですが、同じ医師でも、ストレスが多い専門科医ほど心筋梗塞にかかることがイギリスで調査ずみです(たとえば、皮膚科・整形外科医より、麻酔科・外科・内科医のほうが心筋梗塞にかかりやすい)。

ストレスは発散がポイント

もともとの性格はそう簡単には変えられるものでありませんが、日常、上手にストレスを解消して、リラックスすることがたいせつです。
ゴルフ、釣り、酒、子供と遊ぶ… …など、人によってさまざまでしょうが、要は、のんびり、ゆっくりとした気分になれる時間を長くもつことです。特に、ふだん血圧が高い人は、会議の最中でも、深呼吸や手首の屈伸運動など、緊張ずくめの気分をちょっとでもほぐすことを考えましょう。
昼休みはソファーに横になってもよし、また好きな音楽を聞くこともよいでしょう。親しい友人と冗談を交すのも一方法です。緊張のしっばなしでは、血圧も上がったままで、それだけ身を蝕むはめとなるのです。

A型について

同じ強さの刺激でも、せっかちなA型性格の人ほどストレスをおこしやすく、ノルアドレナリンという興奮性のホルモン分泌が盛んになります。このホルモンは、血管の緊張を高めて、血圧を上げます。またストレスは、コレステロールもふやします。

暑さ

脱水状態は血栓をつくってしまう

高血圧は冬の寒冷が危険だということは常識です。それなら夏は安心かというと、実はそうではないのです。
脳卒中や心筋梗塞という病気が冬にふえるのは当たり前ですが、こういった病気は夏でも発生しているのです。心臓血管系の病気で命を落とす人が寒い季節に多いことは、国際的な常識でもありますが、ただここで例外が1つ知られています。
それはオーストラリアのシドニーで、心筋梗塞で亡くなる人が、冬に比べて夏のほうが多いのです。オーストラリアは赤道の南側にありますから、日本をはじめ欧州やアメリカの気候と夏冬が逆になっていますが、そういう意味ではなくて、シドニーでは、実際に寒い季節よりも暑い季節のほうが心筋梗塞をおこしやすいのです。これはどうしたことかというと、シドニーの冬は暖冬ですごしやすいのですが、夏は酷暑そのもので、このために脱水傾向になります。その結果、血液がこくなり、血液が凝固しやすくなって、血栓症を合併するからなのです。つまり、冠状動脈の血栓症が心筋梗塞につながるというわけです。
それでは、南太平洋やアフリカも気候はシドニーと同じですから、心筋梗塞が夏に多いはずだと考えられますが、実はそうではないのです。

というのは、心筋梗塞という病気は、栄養がよすぎてコレステロール値の高い国民はかかるものの、栄養の悪い開発途上国の人たちはかからないからです。
クーラーが普及していないころの日本で酷暑の夏を迎えたことがあります。このときは、夏だというのに、高齢者がひんばんに脳血栓や心筋梗塞に襲われました。これは高齢者が環境変化に対する順応性の低下のため、暑さで脱水をきたしたからなのです。

カリウム不足に要注意

また、汗にはナトリウムやカリウムも含まれていますが、このカリウムの放出が心筋梗塞の引き金となります。カリウムは、筋肉の細胞内に含まれて
いて、筋肉の収縮に関与していますが、真夏に、大量の汗といっしょにカリウムも流れ出て、心臓の筋肉内にあるカリウムが減ってしまうと、心筋梗塞に襲われるというわけです。

カリウムは、いつもナトリウムと手をとり合って体外に出ていく性質をもっています。したがって、利尿降庄薬を長期に服用している患者さんは、積極的にナトリウムを体外に出すと同時に、カリウムも外に出してしまうので要注意です。カリウムを含んでいる野菜やくだものを努めてとりましょう。

クーラーや冷房の冷気にも注意をはらう

もう1つ夏に気をつけたいのは、クーラーです。皮膚に強い刺激が加えられると、血圧は急上昇します。戸外の熱気から急にクーラーの冷気に身を包まれると、これが強い皮膚刺激となり、血圧を上げてしまうのです。

特に夏は、皮下の毛細血管が冬に比べて拡張しており、毛穴が広がり、汗を出して熱を放散させやすい状態にあります。そのからだを、自然のしくみに逆らって無理に冷やすために、水分その他の代謝のバランスがくずれてしまいます。
これは健康な人にとってもよいわけがありません。まして、健康な人より高血圧の人ほど冷気に弱いのですから、いっそう気をつけなければなりません。
さらに、動脈硬化が進んでいる高齢者の場合には、血管が弱っているのでなおさらのことです。クーラーが効きすぎた状態というのは、外気温との差が五度以上ある場合です。寒い部屋に長くいるとそのうちからだがなれてしまいますが、初めに震え上がるほどの冷えを感じたら、冷えすぎです。暑い外気にふれて家に帰り、いきなりクーラーの前で涼むなどということのないように注意します。オフィスや会社で冷房が強すぎて帰宅すると暑いというのは血圧が変動するので注意しなければなりません。
からだは、入ってくる水分と出ていく水分が均等になっています。温和な気候下で安静な生活をした場合、1日にどうしても必要な水分は、不可避尿400mlと不惑蒸泄900mlを足した1300mlで、これを補わないと脱水状態になってしまいます。
外出でもしようものなら、1500mlほど汗をかきます。汗の分だけ飲水量をふやせば問題はありませんが、高齢者では、のどの渇きを覚えにくいので、うっかりすると脱水状態をおこします。また、高齢者の腎臓は尿をこくする機能が低下しているために、不可避尿の量も多めに必要ですから、特に水分の補給には気を配ってください。