血圧の因子

血流量と血管抵抗が血圧を決定づける

電気の場合は、電圧は電流と電気抵抗の積で決まります。これと似て血圧の高さを決める二大因子は、血流量と血管抵抗です。そして血流量とは、心臓から押し出される血液量(心拍出量)であり、血管抵抗とは、血液の流れに対する抵抗で、その大部分は毛髪のように細い動脈(細動脈)でつくり出されます。

そして、血圧は、血流量がふえたときも、血管抵抗が高まったときも上がります。たとえば運動したり、精神的ストレスを受けた場合は、血流量も血管抵抗も大きくなるので、血圧は上がります。しかし、一般の高血圧という痛気は、病気の初期は別として、血管抵抗が異常に高まった結果、血圧が上がっているので、血流量が特にふえているわけでもないのです。ただ病気のごく初期ではこの逆で、血管抵抗には異常がなく、心臓の活動性が克進し、血流量がふえることで血圧が上がるのです。

ところで低血圧の場合はどうかというと、急性心筋梗塞とか病気の末期状態で血圧が下がるのは、心臓が弱って血流量が減った結果ですが、一般にいう低血圧や血圧が低めの人というのは、血流量には異常がなくて、血管抵抗が低下した結果そうなっているのです。

以上のように、血圧値を決める主な因子は血流量と血管抵抗なのですが、これだけですべて決まるわけでありません。たとえば血液は水と違って粘調性をもっていますから、組織が必要としている血液を血管内へ流すには、水を流すようなわけにはいきません。要するに余分に圧力をかける必要があるということです。

血圧調整の仕組み

血圧は血液をからだのすみずみまで流す原動力ですが、必要にして十分量の血流を保つ目的で、血圧には自動調節機構が常に働いています。
たとえば精神的ストレスなどで大脳が興奮すると、延髄にある心血管中枢にその興奮が伝わり、心拍出量がふえ、血管抵抗が高まるので、血圧は上昇します。しかし、大動脈や頸動脈に存在する血圧センサー(庄受容体)が血圧上昇を感知すると、心血管中枢へ向かって興奮をおさえるように命令し、血圧は元の値に戻るのです。

また急に立ち上がったときに血圧は一時低くなりますが、これもすぐに圧受容体の作用で元の血圧値を保つことができるのです。しかしこのような急激な血圧変動ではなく、いつとはなしに長い年月をかけて血圧が上がってきたという高血圧の場合は、庄受容体は現在の高い血圧値が本来の血圧だと誤認しているので、高い血圧を維持するように働いてしまうのです。

血液量が増えて血圧が上昇するケース

  • 激しい運動をしたとき
  • 高血圧症の初期のころ
  • 大動脈弁閉鎖不全症
    心臓の出口の大動脈弁に異常があって、弁が閉じるべき拡張期に、完全に閉じない病気
  • 房室ブロック
    不整脈の一種。脈が非常にゆっくりで1分間に50以下に減る。ニれは心臓の拡張期が長くなることで、心臓内に多量の血液がたまってしまう。心臓が収縮するときに、いっせいに大動脈へ押し出されることになる。

血管抵抗が増えて血圧が上昇するケース

  • 大部分の高血圧
    細動脈が強く収縮するために、血管の抵抗が大きくなる。この結果、細動脈より心臓に近い動脈の血圧が上がる。

高血圧とは

血圧は、数値がどの値に達したら高血圧と呼ぶのかは、日本でには定めた基準があります。これは、世界的に採用されているWHO (世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)によるガイドラインに準じています。

これまでWHOは、疫学調査用に最大血圧が160mmHg以上、もしくは最小血圧が95mmHg以上であれば「高血圧」と分類、定義していました。
それが、1999年に新ガイドラインを発表しました。新しい基準では、最大血庄140mmHg以上、あるいは最小血圧90mmHg以上の場合を「高血圧」と定義しています。

さらに高血圧を重症度によって5つのグレードに分類しているのも大きな特徴です。目安は、以下のとおりです。

分類 収縮期血圧 拡張期血圧
Ⅲ度高血圧 180以上 110以上
Ⅱ度高血圧 160~179 100~109
Ⅰ度高血圧 140~159 90~99
正常高血圧 130~139 85~89
至適血圧 130未満 85未満

120mmHg未満なら安心

高血圧の定義が従来より低く設定されたのは、アメリカが実施した大がかりな疫学調査に基づいています。これは「ミスターフィクト」と呼ばれるもので、36万人の男性を12年間追跡して、血圧と脳・心臓血管障害の関係や死亡率を調べたものです。

この結果、最大血圧が120mmHg、最小血圧が80mmHg以上になると、脳卒中や心筋梗塞の発症率が徐々に増加することが判明しました。このため、この値より下を「至適血圧」としたのは前述のとおりで、「血圧は低いほど脳や心臓疾患のリスクも少ない」ということから、低い血圧を保つことをめざしています。

近年、食生活が欧米人並みになった日本でも同様に追跡調査がなされ、アメリカと同様の結果が出ました。つまり、最大が120mmHg未満、最小が80mmHg未満であれば、心臓・血管病死のリスクが最も低く、最大140mmHg以上、最小90mmHg以上であればリスクが高くなることがわかりました。そこで、W H O とI S H が定めたガイドラインに準じて、右ページに示した表のうち境界域を除いたものを「日本の血圧分類」として初めて発表しました。

なお、脳動脈や冠状動脈の病変をひきおこす因子は、単に高い血圧だけではありません。年齢、性、遺伝の違いはもとより、糖尿病、血清脂肪の異常をはじめとし、たくさんの因子が複合的にからみ合っているので、正常血圧でも{女仝というわけではありません。

血圧の正常と異常

日本人の標準的血圧値については、厚生省が毎年発表していますが、同年齢の人の血圧値を平均してみると、最大血圧も最小血圧も年とともに上がってきます。
ただし最小血圧については、70歳以降に下がる傾向がみられます。そして最大血圧の平均値は、年齢に90を足した値にほぼ似ています。
このことが、「血圧は年齢に90を足した値」と言い伝えられている理由ですが、この結論は大きな過ちをおかしているのです。というのは、血圧の平均値というのは、病的に高血圧の人も、また低血圧の人も、いっしょくたにした値だからです。ところで血圧は、最大血圧についても最小血圧についても、値が上がるほど死亡率が高くなることがはっきりわかっているのですから、自分の最大血圧の値が年齢に90を足した値だったからといって健康だと思ってはいけません。

つまり血圧の平均値とは、身長や座高の標準値と同一に扱うわけにいかないのです。

最大血圧にせよ最小血圧にせよ、高くなるにつれて死亡率も上昇するのは確かです。

最大血圧が10mmHg上がると、脳卒中にかかりやすくなったり、脳卒中死の危険が高まる。その危険度は、男性では2割、女性では1,5割もアップするのです。

最大血圧・最小血圧

血液は絶えず流れている

人の生命と健康を保っているのは、それぞれ使命を異にする臓器が健全に働いているからです。その臓器を企業にたとえるなら、企業の健全運営を支える1人1人の社員は細胞そのものなのです。ところが私たちのからだを支えている1つ1つの細胞は、与えられた仕事をするために酸素を必要としていますが、大きな欠点として、酸素は食いだめできないのです。
つまり細胞は、仕事をするために絶えず酸素を必要としています。この酸素は、血液のなかの赤血球にくっついて運ばれているわけですから、血液は休むことなく細胞へ向かって流れていなければなりません。

大動脈の特徴

血液をまんべんなく流す原動力は心臓のポンプ作用にあるわけですが、心臓は、収縮している間は血液を大動脈内へ送り込むものの、心臓が拡張している時期は、血液は大動脈へ送られていきません。したがって、もし大動脈が井戸の管のようにかたくて弾力性がない構造だとしたら、水を流そうとポンプのレバーーを押し下げている間は水は流れるものの、レバーを上げている時期は、水の流れは完全に止まってしまうのです。これでは水を絶えずほしがっている細胞は、たまったものではありません。
しかし、私たちの大動脈と呼ばれるパイプは、弾力性に富んでおり、この欠点を十分カバーしているのです。つまり、心臓が収縮して血液を一気に押し出してくる時期は、大動脈はふくらみながら血液を受け入れるのです。
これは、心臓から押し込まれた血液のが、自己の弾力性によって元の姿に戻ろうとすることによって、大動脈内へたまった血液は休むことなく下流へ押し出されていくのです。このしくみによって、それぞれの組織の毛細管を流れる血液の量は、常にほぼ一定の量を保つことができるといいうわけです。

最大血圧のとき

左心室が収縮すると、左心室内圧が上がり、大動脈弁が開き、血液が大動脈へ押し出される。このとき、血圧が上がる。左心室が収縮するときの初期に、血圧は最大になる。毛細管の手前の動脈では、血夜がたくさん流れてくる時期と、ゆっくり送られてくる時期とを交互にくり返している。つまり、動脈の圧力は、高くなったり低くなったりしている。いちばん高い時期の血圧が最大血圧で、いちばん低い時期の血圧を最小血圧という。

最小血圧のとき

心臓からの血液の送り出しが終わると、今度は左心室が拡張期に入る。このとき、大動脈から血液が逆流しないように、弁が閉じる。ふくらんだ大動脈は、元の太さに戻ろうとする弾力性によって、下涜へ血液が送り出されるしくみになっている。左心室が収縮する直前の血圧が最も低くなる。

血圧とは

血圧とは…動脈圧をさす

血圧とは、血管の中を血液が流れるとき、血管壁を押し広げる圧力のことをいいます。ところが、ひと口に血管といっても、心臓から送り出された血液が、からだのすみずみを通って再び心臓へ戻ってくる経路は、太さにしても壁の厚さにしても構造は違っています。
このため血管は、構造の違いにより、大動脈→動脈→細動脈→毛細管→静脈→大静脈というぐあいに、呼び名もいろいろあるわけです。

そして、同じ人でありながら、名前の違う血管の部位ではかられた血圧の値は大きく違っています。しかし、一般に血圧と呼んでいるのは動脈圧のことで、測定する部位は上腕動脈ですから、厳密には上腕動脈圧というのが正しいのです。これに対して、毛細管の圧力は毛細管庄、静脈の圧力は静脈庄と呼ばれます。

血圧で何がわかるのか

ところで血圧(動脈庄をはかる目的は、大きく分けて2つあります。その1つは、高血圧の診断や、病人の心臓機能を判定する目的です。この場合は、大動脈の圧力を知ることがたいせつなので、手足の末端ではかるわけにはいきません。これは、はかられた値が大動脈庄を正しく反映しないからです。また、この動脈の経路に異常がなくても、寒さや精神的ストレスで血管が収縮すると、手足の末端の血圧は低くなってしまうものです。たとえば、寒い環境で血圧をはかってみると、下腿の血圧は大腿の血圧より40mmHgも低い値になってしまいます。

血圧測定の第2の目的は、2か所の血圧値を比較して動脈の病気を診断することです。たとえば右と左と別々にはかった眼底血圧値が違っていることから、片側の内頸動脈閉塞が診断できこるし、上腕動脈庄や股動脈圧が右側と左側で違っていることから、動脈の閉塞病変が診断できるのです。

血圧測定はふつう上腕部でするのですが、ときに下肢ではかることもあります。一般に血圧値は、心臓から遠ぎかるほど低くなると考えられがちですが、実はそんな単純なものではなく、同じ大動脈の血圧も、心臓に近い胸部大動脈と、心臓から遠い腹部大動脈では、動脈内圧の状態は違うのです。

結論的には、腹部大動脈の血圧は胸部大動脈に比べて、最大血圧はより高く、最小血圧はより低めとなります。ということは、胸部大動脈庄を反映する上腕動脈の血圧は、腹部大動脈圧を反映する股動脈の血圧と違うということです。
この血圧差は、最大血圧について10mmHgにも達します。ただしこの差が15mmhgミリにも20mmHgにも達したときは、大動脈弁閉鎖不全症の疑いが出てきますし、それとは逆に、下肢の血圧が上腕の血圧より低いときは、大動脈に狭窄があることを意味しているのです。

血圧の循環図

血圧の流れ
血圧の流れ