経過

高血圧をそのままに放置しておくと心臓や動脈に無理がかかるために、それだけ早く傷みます。血圧が高いと脳卒中や心筋梗塞にかかりやすいといわれますが、そのとおりで、脳の細動脈が壊死に陥ると脳出血がおこり、脳の細動脈硬化や脳動脈の粥状硬化が進むと脳梗塞がおこります。

また、冠状動脈の粥状硬化が進むと狭心症や心筋梗塞がおこるのです。高血圧の人の寿命をみると、血圧値が高いほど死亡率が高いし、同じ高血圧でも、眼底所見が進むほど死亡率も高くなります。

また心電図検査をして、左心室の肥大があればあるほど死亡率が高くなります。そのほか、高血圧とは特に関連がないと思われることでも、これが高血圧と複合的に重なると、高血圧の死亡率が高まることが知られています。

危険因子が多い人ほど狭心症や心筋梗塞をおこしやすい

危険因子

  • 高血圧
  • 喫煙
  • 高コレステロール血症
  • 糖尿病
  • 高齢

症状

自覚症状はあてにならない

一般に血圧が高くても、いずれ自覚症状が出てきたら治療すればよいと考えている人が多いようです。痛くもかゆくもないのですからリスクも想像できないのが当然といえば当然です。

その自覚症状とは何かというと、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、手足のしびれなどがあるようにいわれていますが、実はこういった自覚症状は、低血圧の人の訴えでもあるのです。

ここで、これら自覚症状を訴える人を血圧別にみてみると、血圧が正常の人も高い人も同じような確率という結果が出ています。したがって、高血圧に特有の自覚症状はないと考えたほうが正しいのです。

高血圧による自覚症状をあげれば、脳循環障害を合併したときに、回転性めまいやひどい物忘れがおこりがちという点です。また物が二重に見えたり(複視)、突然の下肢筋力低下も重要な脳循環障害の兆候ですが、これは、かなり脳動脈がやられた時期のもので、この段階で血圧をさげたところで効果はないし、場合によっては、血圧を下げるとさらに症状がひどくなることすらあるのです。

高血圧と診断されたら無症状も注意が必要

一般に血圧の高い人は、血圧が正常な人や低めの人と違って、人一倍活動的であり、仕事も人一倍こなす有能な存在なのです。無理もきくし、疲れも知らないという体力ももっています。

そして昨日まで元気に仕事をしていたのに、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞で倒れるという痛ましい出来事がおこるのです。これはまさに会社の倒産と似て、はたで見ている人には驚きそのものですが、

その会社も経営診断を受けていれば、倒産の予知ができたはずです。高血圧もこれと同じで、なんの自覚症状がなくても、実に相違して、からだの中では嵐のような現象がおこっているのです。血圧が高いと指摘されたら、自覚症状がなくても、たいへんなことだと理解してほしいのです。

日ごろ血圧が高いままの状態をほうっておくと、動脈がどんどん傷みます。しかし、じわじわと進んでくる高血圧症のような慢性疾患は、警告としての自覚症状を示さないのです。そして狭心症とか、一過性脳虚血発作とかがあらわれた時期は、かなり病変が進んでおり、こんな段階で高血圧の治療を始めたところで、期待したほどの効果はありません。まさに氷山が見えたときはもう遅く、海面の下には目に見えない危険がいっぱい潜んでいるのです。
高血圧の自覚症状のなかで特に重要なのは、前述した脳循環障害の症状とか、腎機能の低下による夜間排尿回数の増加、心不全の初期兆候としての労作時の息切れなどがあります。ひんみやくまた、発汗しやすいとか、頻脈発作があるとか、二次性高血圧の診断の手がかりとして重要な兆候はいっばいありますが、高血圧が中等度まで進んでも、それを教える自覚症状というものはなにもないのだということを十分に理解してほしいものです。

メモ

自覚症状から、血圧が高いかどうかはわがJ ません。あくまでも血圧をはからないかぎり、高血圧かどうか診断できません。こちらから自分の値がどこに位置するのかをしっかり知ることがとても大切です。
高血圧はじわじわと進んでくる病気で、中等度までは無症状です。狭心症や一過性脳虚血の発作がおこる前から、つまり高血圧といわれたらすぐに、治療を開始することがたいせつです。

検査(2)

肥満判定

高血圧で肥満している場合は、降圧薬が効きにくく、といって降圧薬の量を増すと、長期の連用で副作用の心配が出てきます。また太っていると、高血圧による心臓の傷みを助長しますし、血清脂質(コレステロールや中性脂肪)や尿酸値を高める可能性がありますから、肥満は是正する必要があります。

ところで、肥満度の判定の基礎となる標準体重の算出法はいろいろです。そのために同じ身長でも、異なった方法で算出された標準体重はそれぞれ違っているのです。

特に【身長(cm)-100】というブローカ方式や、その値に0.9を掛けたブローカ変法では、背の高い人は太っているのによりスマートに、背が低い人では太っていないのにより太りぎみに判定されてしまいます。

その他の方法でも、骨太の人や筋肉質の人では、脂肪が多くないのに体重は重いので、肥満度の計算では肥満体と誤まられがちです。また、高齢になると体組織の萎縮によって体重は減りますが、脂肪組織は体重のわりには減っていません。

こういう理由で、肥満度を正しく判定するためには、皮厚(皮下脂肪の厚さ) をはかるのがいちばんです。しかし測定の技術がむずかしく、また誤差が大きいきらいがあります。

近年は、体脂肪計で脂肪率を計測する方法も普及しつつあります。また、体内のどこに脂肪が集まっているかにょって、W( ウェスト)とH(ヒップ)比をはかり、洋ナシ型とリンゴ型に分ける肥満判定もあります。

尿検査

一般には、たんばくと糖、潜血反応の3項目を検査しますが、ほんとうは潜血反応でなく沈渣をしらべるのがよいのです。
これは沈渣のなかに白血球が多ければ、腎孟腎炎発見の手がかりとなるからです。

沈渣のなかに赤血球が多くみられるのは、各種腎炎の診断の手がかりとなりますが、尿たんばくが痕跡程度なのに赤血球が多数みられるときは、腎結石による片腎性高血圧の疑いが出てきます。

なお尿たんばくについては、血圧値のわりに著明なら腎実質性高血圧が疑われ、血圧値のわりに少なければ、高血圧による腎障害と判断されます。
尿糖をしらべるのは、糖尿病発見の手がかりをつかむためですが、同時クッシンググ症候群や褐色細胞腫の一兆候でもあります。特に高血圧の人に糖尿病病が合併すると、粥状硬化が進んで、心筋梗塞や脳卒中のおこり方が多くなるので、これは重要な検査です。
いずれにせよ、食後2時間めの採尿が理想的です。これは、糖代謝障害があっても、空腹時や食後時間がたっている場合は、血糖値がより低めですから、尿に糖が出てきにくいためです。食後の血糖値は1時間前後で最高に達しますが、血糖が上昇して腎臓からは糖が排泄され、膀胱に十分たまるのを待って採尿するというわけです。

血液検査

血液沈降速度(血沈は、促進しているからといって特定の病気を意味しているわけではありませんが、大動脈炎、腎孟腎炎、膠原病などの手がかりとなります。また血栓形式の促進因子であるフィブリノーゲンがふえると、血沈は促進しがちです。赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、白血球数は自動算定装置で一度にはかれます。これで貧血や赤血球増多症の有無がわかりますが、特にへマトクリット値の増加は心筋梗塞の危険因子として重要視されます。たとえば、ヘマトクリットが50以上の群は42未満の群にくらべ冠動脈疾患は2倍以上にふえることが、プエルトリコの調査で証明ずみです。血糖値は、前述のように糖尿病診断の手がかりとして、またクッシンング症候群や褐色細胞腫の参考資料としての意義をもっています。なお糖尿病は、脳卒中や心筋梗塞の重大な危険因子の1つです。

血清生化学的検査

血清カリウムは、高アルドステロン症の診断の手がかりとしての重要性と、利尿降庄薬の副作用チェックの意味をもっています。アルドステロンは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種で、これがふえると、一見、本態性高血圧と似た高血圧が発生します。

低カリウム血症では、心筋内のカリウムが減り、心筋に虚血が生じたとき壊死に陥りやすいので危険ですし、また脳卒中で片まひをおこしている場合は、回復していた手足のまひが悪化することもあります。

血清総コレステロールがふえると、冠状動脈硬化症が進みますが、同時に血液粘調度も増すので、血栓をつくりやすくなる危険があります。しかし逆に血清総コレステロールが少ないと、脳出血や脳血栓にかかりやすいことが日本の疫学調査でわかっています。
したがって血清総コレステロール測定は、高血圧の生活指導に重要です。近ごろHDLコレステロール(善玉コレステロール) が注目されていますが、血清総コレステロール値が高くないなら、ことさらHDLコレステロールをしらべる必要はなかろうという考え方もあります。

中性脂肪についても、血清総コレステロールが高くなければ検査の必要はないという考え方があります。もししらべるのであれば、食後10時間以上の絶食後に採血することがたいせつです。

また飲酒習慣のある人は、3~4日の禁酒を守ったうえで採血します。この注意を守らないと、中性脂肪が高値を示しても意味づけができません。

血清尿素窒素やクレアチニンは、腎機能障害の程度の指標となりますが、重篤な肝障害があると、腎機能が低下していても尿素窒素は増加しません。これらは腎実質性高血圧の診断には有用ですが、高血圧による腎臓の二次的障害をみる目的では、感度が鈍感すぎて役に立ちません。血清尿酸値は、痛風の診断や利尿薬の副作用をみる目的で検査します。

腎機能検査

腎臓は、血液中の異物を排泄する働きがあり、この働きぐあいをしらべるのがPSP検査です。これは、フェノールズルフォフタレインという赤い薬液を静脈内注射して、尿中への排泄量を調べることで腎機能を知る検査です。

特に静注後15分めの尿中排泄量は、腎血環流量と関連が深いので、有用な検査です。ただ血清尿素窒素がふえているときは、クレアチニン・クリアランスという検査でないと、実際の役には立ちません。

また、腎臓は尿をこす作用がありますが、これは腎機能障害の初期段階で低下するので、尿濃縮試験は有用な検査ですが、水や電解質の異常がある場合や、水分制限を禁忌とする病気をもっているときは、検査するわけにいきません。腎臓の尿細管疾変については、尿中のβ2マイクログロブリンやNAG(尿細管細胞逸脱酵素) をしらべることで診断されます。

眼底検査

高血圧症による細動脈病変を直接にしらべる検査で、特に脳出血や脳梗塞の危険因子でもあるところから、たいせつな検査です。眼底所見の把握には、眼底鏡による方法と、眼底カメラで写真記録する方法と2通りあります。

心電図検査

心電図検査は、高血圧による心臓合併症の発見と、脳卒中や心筋梗塞の危険因子としての心電図異常有無をみる目的で検査します。これも安静時の検査にとどまらず、年齢や既往歴、自覚症状などから冠状動脈硬化症が疑われる場合は、運動負荷時の心電図も記録されます。

胸部レントゲン検査

これは高血圧のスクリーニング検査というより、むしろ臨床全般としてのスクリーニング検査です。もちろん心臓陰影や大動脈陰影の異常は、それなりの意義をもっています。

静脈性腎盂造影

近ごろはスクリーニング検査として省略されがちですが、腎血管性高血圧や片側萎縮腎による二次性高血圧の診断の手がかりとして有用ですから、既往歴その他でこれら疾患の疑いがあるときには、省略できない検査です。

検査(1)

初めのチェック

1回や2回の血圧測定で高血圧であったとしても、それだけでほんとうの高血圧と決めつけるわけにはいきません。血圧が高い場合には、まず詳しい問診や診察と、血圧測定のくり返しによって、ふだんの血圧も高いのかどうか(真の高血圧かどうか)をチェックする必要があります。
それと同時に、高血圧であるなら、それが本態性高血圧なのか、二次性高血圧なのかの鑑別も重要です。診断を確定するにはほんとうの高血圧と判断された場合は、次に、簡単なスクリーニング検査が行われます。
これは、高血圧自体による血管障害の程度を把握する目的と、二次性高血圧の手がかりをつかむ目的を兼ねています。これで二次性高血圧の疑いが濃厚な場合は、確定診断のための精密検査が行われます。また本態性高血圧と診断された場合には、高血圧による脳卒中や心筋梗塞の発生に拍車をかける合併症の有無、程度を把握する検査が行われます。
なお、降圧薬治療を続けている最中にも検査が行われますが、これは、降圧薬の副作用チェックのためと、高血圧による血管障害と臓器障害の進行程度を観測するためです。

問診がたいせつな診断上の手がかりになる

  1. 高血圧と心血管疾患の家族歴
  2. 心血管疾患、脳血管疾患、腎疾患あるいは糖尿病の既往歴
  3. に行った降圧治療の効果と副作用
  4. 血圧に影響を与える薬(たとえば経口避妊剤)の使用
  5. 体重の増加度、食塩やアルコールのとり方
  6. 二次性高血圧を疑わせる症状(脱力感、多尿、頭痛、多毛など)
  7. 血圧のコントロールに影響を与えると考えられる社会心理学的因子と環境因子(つまり精神的ストレス、食習慣および経済状態)
  8. その他、心血管危険因子(肥満、喫煙、高脂血症および耐糖能の低下など)

診断確定のための検査

  • 臥位あるいは坐位、および立位における2回以上の血圧の測定
  • 反対側の腕での血圧の確認、下肢の血圧の測定
  • 身長と体重の測定(ときに皮厚測定を行う)
  • 眼底検査を行い、細動脈狭窄、動静脈交叉現象、出血、溶出液およびうっ血乳頭の有無を確認
  • 頸動脈血管雑音の聴取、静脈怒張および甲状腺腫大の確認
  • 心拍数、心臓の大きさ、前胸部拍動、心雑書、不整脈
  • 腹部における血管雑音の有無、腎臓の腫大および大動脈の拡張
  • 四肢における、末梢動脈拍動の減弱ないし消失および浮腫
  • 神経内科学的検査

血圧の変動

血圧はさまざまな要因で変動する

血圧値は身長や体重とは異なり1日のなかで大きく変動します。一般に血圧は、睡眠中が最も低く、朝から日中にかけて上昇してくるという、ゆるやかで大きな日中変動を示していますが、感情の高ぶりとか、肉体労件による瞬時の変動がこれに重なって、不用意に血圧をはかっても、得られた値をそのまま、その人のふだんの血圧値と決め込むわけにはいきません。

ところで血圧の連続測定を行い、1時間ごとに平均値を求めた研究によると、正常血圧の人や、高血圧症でも軽症の場合は、午後6時ごろから血圧が落ち着きはじめ、睡眠中の午前3時前後で最も低くなりますが、目がさめてからは急に血圧が上がってくることがわかりました。

今までの常識ですと、午前中の血圧は午後の血圧に比べて、かなり低いように考えられていましたが、実はそうではないようです。高血圧症の人でも、治療せずにいたため、左心室肥大を合併してしまうと、夜間睡眠中でも血圧の落ち着きは不十分となってしまいます。

高血圧の人の養生法の1つとして、昼間、高い血圧で傷んだ血管を回復するために、十分な睡眠をとることがすすめられていますが、高血圧がかなり進行した時期では、これも焼け石に水ということがおわかりでしょう。この連続的にはかった血圧値を1時間分当て平均化するという方法では、たとえばその一時間のうちに2~3分間不慮の血圧上昇がおこったとしても、平均化されて不明瞭になってしまいます。そこで今度は、1日の血圧を五分おきにはかったケースをみてみましょう。

どのくらい変動するか

血圧は、常に一定しているものではなく、安静に横になっている状態でも刻々と変動しています。たとえば最大血圧をみると、血圧が正常な人でさえ、15~40mmHg、高血圧の人では10~90mmHgも変動するのです。

5ふんおきに血圧測定すると

血圧が、日中は高く、睡眠中は低いといっても、一様に高い、低いというわけではなく、瞬時的に高くなったり、落ち着いたりをくり返していることがわかります。たとえば睡眠中にしても、電話のベルや救急車のサイレンが脳を刺激すると、無意識なのに、血圧はびっくりするくらい上がるものです。

ちょっとした動作でも変動する

  • 食事
    3~37mmHg
  • 横になって休む
    4~62mmHg
  • 咳をする
    26~123mmHg
  • 喫煙
    21~60mmHg
  • トイレで排便(洋式)
    32~97mmHg

これらを見ると、ちょっとした行動で、いかに血庄が変動すかがわかります。また人によって、血圧の上がり方はいろいろですが、血圧の高い人ほど変動が激しいものです。なにかのはずみで、たまたま一瞬の血圧が上がってしまうことが多いので、たった1回の血圧測定で、その人の血圧を評価することは無理です。
自分のほんとうの血圧値を知るためには、深呼吸をゆっくり5 回してみることです。こうすれば日ごろの血圧値に戻るので、この直後に血圧をはかってもらうとよいでしょう。

種類

原因がはっきりしている高血圧

血圧は、血液量がふえても、血管抵抗が高まっても上がります。からだのどこかに、この2つの原因を生み出す病気が潜んでいて、そのために高血圧になったという場合は、特に症候性高血圧、または二次性高血圧といい、原因不明の本態性高血圧と区別されています。

腎臓の病気による高血圧

いちばん多いのは腎臓の実質の病気、つまり慢性糸球体腎炎や慢性腎孟腎炎などです。炎症によってナトリウムの排泄が十分行われなくなり、血圧が上がってきます。
そのほか、腎血管性高血圧という病気があります。これは腎臓へいく腎動脈が狭窄をおこしたためにおこる病気です。狭窄のために腎臓の組織が血液不足となりますが、そうなると腎臓の穿糸球体細胞からレニンと呼ばれる一種のたんばく分解酵素が分泌されます。
レニンンーアンジオテンシン系のメカニズムで血圧が上昇します。

内分泌の異常による高血圧

これは、ある種のホルモン分泌器官が異常に増殖して、過量のホルモンを出すために血圧が高くなる場合です。たとえば褐色細胞腫という病気は、副腎髄質やクロム親和性細胞にできる良性腫瘍で、アドレナリンやノルアドレナリンというホルモンをたくさん分泌するために高血圧をひきおこします。
原発性アルドステロン症( 副腎皮質せ腺腫) という病気は、副腎皮質にできる良性腫瘍で、この場合はアルドステロンというホルモンを過剰に分泌し、体内のナトリウムを排泄しにくくします。体内にたまったナトリウムは水をひきつけ、体液量も血液量もふえるために高血圧となるのです。

本態性と二次性は治療方針が異なる

本態性高血圧と二次性高血圧は、治療方針のうえで大きな違いがあります。つまり、本態性高血圧の治療は、高い血圧を下げること自体が根本L方針で、脳卒中や心筋梗塞につながる危険因子があれば、これも是正していくことが治療の中心となるのですが、二次性高血圧では、原因疾患の治療が第一義的な治療方針となります。
二次性高血圧のなかには、根治療法が可能なものがいくつもあります。たとえば褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、腎動脈狭窄、片側だけの水腎症などは、手術で根治できます。
つまり大もとの病気を治せば、二次的に上がった血圧も正常に戻ります。しかし、血圧が高いままの状態が長期間続〈と、細動脈の病変が進んでしまい、血管抵抗が増加しますし、特に高血圧による腎臓の病変が進むと、今度は腎実質の病気による慢性の高血圧が発生します。この段階では手遅れで、あわてて手術をしたところで、高血圧は是正しょうがありません。

原因

原因がわからない高血圧が多い

高血圧のほとんどは、なぜ血圧が上がったのか原因が不明です。単に血圧が高いということ自体が病気の本態だということで、これを本態性高血圧と呼びます。

本態性高血圧の場合、どういうメカニズムで血圧が上がるのかというと、そのごく初期は血流量がふえているだけで、血管抵抗は健康者と変わりないのです。ところで本態性高血圧という状態がほぼ完成した時期では、増加した血流量はまたふつうの状態に改善していて、いつのまにか血管抵抗が異常に高くになってしまっているのです。全世界の学者が半世紀以上もかかって研究しているのに、ほんとうの原因はまだ解明されていません。

今から55年も前のことですが、「本態性高血圧というのは特定の病気ではなく、複数の因子が関与して血圧を高くしているのだろうと解釈されたのです。

現在では、どのへんまで研究が進んでいるのかといえば、ごくごく簡単に言うと、「本態性高血圧とは、遺伝を背景とし、さまぎまな環境因子で発生する病気」と解釈されています。

遺伝が大きな因子

どんな人が高血圧になりやすいのかというと、大きく分けて遺伝因子と環境因子の2つあります。ひと口にいうと、遺伝が六割強、環境が4割弱という比率で高血圧の発生に関与するともいわれています。

遺伝については、調査があります。この血圧を支配する遺伝子数は現在20以上見つかっており、この数が一定数に達すると血圧値が上がりはじめ、この数が多いほど血圧の上昇が大となるわけです。しかし高血圧の濃厚な遺伝歴がある人でも、環境がよい場合には高血圧の発生時期が遅れてくるし、血圧上昇もさほど著明にならないようです。ところで環境因子については、気候、食事、時好、職業、ストレスなど多L方面から研究されているものの、いちばん影響が大きいのは食塩です。そして遺伝素因と環境条件とが複合的に関連し合いながら、血圧が上がってくるのです。

食塩が影響している

環境因子のなかで、最も注目され重要視されているのは、食塩です。実は食塩をほとんどとらない原住民は、年をとっても高血圧にならないのですが、より文化的生活で食塩をたくさんとるようになると、血圧が上がってくることが調査ずみです。このことからも、食塩と血圧とは深い関連のあることがわかります。

なぜ食塩が血圧を上げるのか?

ネズミに食塩を多量に摂取させたときに、血圧が上がる場合と、上がらない場合のあることが確認されました。要するに高血圧の遺伝素因をもっているネズミの腎臓では、余分に取りすぎた食塩を排泄させるのに、血圧を上げる必要があるのです。

人間でも高血圧では、赤血球や白血球をはじめ腎動脈壁にはナトリウムが異常に高濃度です。これは、細胞内のナトリウムを細胞外へくみ出す働きが不十分なことを示しています。

体内では、ナトリウムは細胞外に、カリウムは細胞内に圧倒的に多く存在しています。ですから、ナトリウムは細胞外から細胞内へもれ込みやすいし、カリウムは逆に細胞内から細胞外へもれ出しやすくなっています。ところが必要以上に大量の食塩をとると、細胞外のナトリウムがふえ、これがいっせいに細胞内へもれ込みます。細胞内へナトリウムがたまるのは生理的にぐあいが悪いために、細胞膜では細胞内の余分なナトリウムを細胞外のカリウムと入れかえるメカニズム( ナトリウムポンプという)が作動します。

健康な人の場合、余分な食塩は、腎臓から排除されます。しかし高血圧の遺伝素因をもった人の腎臓では、ナトリウム排除機能が低下しており、どうしても体内にたまりがちとなります。すると、脳組織からナトリウム利尿ホルモンが分泌されます。このホルモンは、腎臓の尿細管でナトリウムが再吸収されるのを抑制する働きがあるのです。
これは腎臓からのナトリウム排泄には合理的な結果をもたらしますが、実は同時に、細胞内ではナトリウムポンプの働きを封じ込める余計な仕事に手を出すのです。

ところが、細胞内にたまったナトリウムは、細胞外のカルシウムと入れかわる反応がおこります。この反応は、細胞内にナトリウムがたまりすぎるのを防ぐには合理的ですが、ナトリウムと代わって細胞内へ入り込んだカルシウムは、とんだ悪者で、筋肉線維を収縮させるいたずらをします。これが細動脈の細胞でおこったとなないると、細動脈はいっせいに収縮し、内腔が狭くなり、血管抵抗が高まってしまうのです。これが本態性高血圧の成りたちに大きく関与しているのではないかと考えられています。

遺伝意外に血圧を上げる要因となるもの

  • 食塩のとりすぎ
  • 肥満
  • 運動不足
  • ストレス
  • 皮膚の刺激

高血圧を維持する因子

レニン-アンジオテンシン系

本態性高血圧症のなかには、レニンという物質がふえている人が15%て程度います。このレニンは、腎臓から分泌されるたんばく分解酵素で、血管の収縮に関係をもっています。つまりレニンは、血液中のアンジオテンシノーゲンに働いて、アンジオテンシンⅠ という物質を作り出します。
これはさらに肝臓や各組織に含まれる変換酵素の作用を受けて、アンジオテンシンⅡにかわりますが、これこそ強力な血管収縮作用をもっているのです。アンジオテンシンⅡは、同時に副腎皮質に働いて、アルドステロンの分泌を促し、これがさらに腎臓の薯糸球体細胞を刺激してレニンの分泌を促すというぐあいに悪循環をくり返します。ノルアドレナリンとアドレナリンの作用本態性高血圧の初期には、血液中にノルアドレナリンというホルモンがふえていますが、このことは、本態性高血圧の発症に交感神経の緊張克進が重要な働きをしていることを教えます。そして、この初期に腎臓からの食塩排泄機能の低下があることもわかっています。

ちろん交感神経の緊張が高ますいると、副腎髄質からノルアドレナリンやアドレナリンの分泌も促されるのですが、それだけでなく、レニン-アンジオテンシン系の賦括にもつながっています。要するに、本態性高血圧の発生に重要な因子として現在わかっているのは、

  1. 交感神経の緊張克進
  2. 体内の食塩停滞

こうして高血圧が発生し、その状態が長く続いているうちに交感神経の緊張克進状態は目だたなくなり、増加した血流量も元に戻ります。この時期では血管抵抗の高まりが目だつのですが、くわしく調べてみると、細動脈が単に収縮して抵抗を高めているのではなく、細動脈が肥厚して内腔を狭めているのです。

血圧の因子

血流量と血管抵抗が血圧を決定づける

電気の場合は、電圧は電流と電気抵抗の積で決まります。これと似て血圧の高さを決める二大因子は、血流量と血管抵抗です。そして血流量とは、心臓から押し出される血液量(心拍出量)であり、血管抵抗とは、血液の流れに対する抵抗で、その大部分は毛髪のように細い動脈(細動脈)でつくり出されます。

そして、血圧は、血流量がふえたときも、血管抵抗が高まったときも上がります。たとえば運動したり、精神的ストレスを受けた場合は、血流量も血管抵抗も大きくなるので、血圧は上がります。しかし、一般の高血圧という痛気は、病気の初期は別として、血管抵抗が異常に高まった結果、血圧が上がっているので、血流量が特にふえているわけでもないのです。ただ病気のごく初期ではこの逆で、血管抵抗には異常がなく、心臓の活動性が克進し、血流量がふえることで血圧が上がるのです。

ところで低血圧の場合はどうかというと、急性心筋梗塞とか病気の末期状態で血圧が下がるのは、心臓が弱って血流量が減った結果ですが、一般にいう低血圧や血圧が低めの人というのは、血流量には異常がなくて、血管抵抗が低下した結果そうなっているのです。

以上のように、血圧値を決める主な因子は血流量と血管抵抗なのですが、これだけですべて決まるわけでありません。たとえば血液は水と違って粘調性をもっていますから、組織が必要としている血液を血管内へ流すには、水を流すようなわけにはいきません。要するに余分に圧力をかける必要があるということです。

血圧調整の仕組み

血圧は血液をからだのすみずみまで流す原動力ですが、必要にして十分量の血流を保つ目的で、血圧には自動調節機構が常に働いています。
たとえば精神的ストレスなどで大脳が興奮すると、延髄にある心血管中枢にその興奮が伝わり、心拍出量がふえ、血管抵抗が高まるので、血圧は上昇します。しかし、大動脈や頸動脈に存在する血圧センサー(庄受容体)が血圧上昇を感知すると、心血管中枢へ向かって興奮をおさえるように命令し、血圧は元の値に戻るのです。

また急に立ち上がったときに血圧は一時低くなりますが、これもすぐに圧受容体の作用で元の血圧値を保つことができるのです。しかしこのような急激な血圧変動ではなく、いつとはなしに長い年月をかけて血圧が上がってきたという高血圧の場合は、庄受容体は現在の高い血圧値が本来の血圧だと誤認しているので、高い血圧を維持するように働いてしまうのです。

血液量が増えて血圧が上昇するケース

  • 激しい運動をしたとき
  • 高血圧症の初期のころ
  • 大動脈弁閉鎖不全症
    心臓の出口の大動脈弁に異常があって、弁が閉じるべき拡張期に、完全に閉じない病気
  • 房室ブロック
    不整脈の一種。脈が非常にゆっくりで1分間に50以下に減る。ニれは心臓の拡張期が長くなることで、心臓内に多量の血液がたまってしまう。心臓が収縮するときに、いっせいに大動脈へ押し出されることになる。

血管抵抗が増えて血圧が上昇するケース

  • 大部分の高血圧
    細動脈が強く収縮するために、血管の抵抗が大きくなる。この結果、細動脈より心臓に近い動脈の血圧が上がる。

高血圧とは

血圧は、数値がどの値に達したら高血圧と呼ぶのかは、日本でには定めた基準があります。これは、世界的に採用されているWHO (世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)によるガイドラインに準じています。

これまでWHOは、疫学調査用に最大血圧が160mmHg以上、もしくは最小血圧が95mmHg以上であれば「高血圧」と分類、定義していました。
それが、1999年に新ガイドラインを発表しました。新しい基準では、最大血庄140mmHg以上、あるいは最小血圧90mmHg以上の場合を「高血圧」と定義しています。

さらに高血圧を重症度によって5つのグレードに分類しているのも大きな特徴です。目安は、以下のとおりです。

分類 収縮期血圧 拡張期血圧
Ⅲ度高血圧 180以上 110以上
Ⅱ度高血圧 160~179 100~109
Ⅰ度高血圧 140~159 90~99
正常高血圧 130~139 85~89
至適血圧 130未満 85未満

120mmHg未満なら安心

高血圧の定義が従来より低く設定されたのは、アメリカが実施した大がかりな疫学調査に基づいています。これは「ミスターフィクト」と呼ばれるもので、36万人の男性を12年間追跡して、血圧と脳・心臓血管障害の関係や死亡率を調べたものです。

この結果、最大血圧が120mmHg、最小血圧が80mmHg以上になると、脳卒中や心筋梗塞の発症率が徐々に増加することが判明しました。このため、この値より下を「至適血圧」としたのは前述のとおりで、「血圧は低いほど脳や心臓疾患のリスクも少ない」ということから、低い血圧を保つことをめざしています。

近年、食生活が欧米人並みになった日本でも同様に追跡調査がなされ、アメリカと同様の結果が出ました。つまり、最大が120mmHg未満、最小が80mmHg未満であれば、心臓・血管病死のリスクが最も低く、最大140mmHg以上、最小90mmHg以上であればリスクが高くなることがわかりました。そこで、W H O とI S H が定めたガイドラインに準じて、右ページに示した表のうち境界域を除いたものを「日本の血圧分類」として初めて発表しました。

なお、脳動脈や冠状動脈の病変をひきおこす因子は、単に高い血圧だけではありません。年齢、性、遺伝の違いはもとより、糖尿病、血清脂肪の異常をはじめとし、たくさんの因子が複合的にからみ合っているので、正常血圧でも{女仝というわけではありません。

血圧の正常と異常

日本人の標準的血圧値については、厚生省が毎年発表していますが、同年齢の人の血圧値を平均してみると、最大血圧も最小血圧も年とともに上がってきます。
ただし最小血圧については、70歳以降に下がる傾向がみられます。そして最大血圧の平均値は、年齢に90を足した値にほぼ似ています。
このことが、「血圧は年齢に90を足した値」と言い伝えられている理由ですが、この結論は大きな過ちをおかしているのです。というのは、血圧の平均値というのは、病的に高血圧の人も、また低血圧の人も、いっしょくたにした値だからです。ところで血圧は、最大血圧についても最小血圧についても、値が上がるほど死亡率が高くなることがはっきりわかっているのですから、自分の最大血圧の値が年齢に90を足した値だったからといって健康だと思ってはいけません。

つまり血圧の平均値とは、身長や座高の標準値と同一に扱うわけにいかないのです。

最大血圧にせよ最小血圧にせよ、高くなるにつれて死亡率も上昇するのは確かです。

最大血圧が10mmHg上がると、脳卒中にかかりやすくなったり、脳卒中死の危険が高まる。その危険度は、男性では2割、女性では1,5割もアップするのです。