減塩のコツその1

お手本は関西料理

脳卒中や胃がんなどといった成人病の少ない関西以南は、食事の味つけが関東以北とは違っています。たとえば、そばにしても、関西ではニシンの香りを賞味できるように塩味をおさえてありますが、関東以北ではそばつゆにたっぶり塩をきかせて、そば本来の風味まで消してしまっています。
ですから、そばづゆの残ったどんぶりの中へご飯を入れてかき混ぜると、おかずなしでもおいしく食べられるといったありさまです。
おすしにしても、関東の握りずしはⅠ人前に3g以上も食塩が使われているのですが、大阪の押しずしは、1人前に1.5g程度の食塩しか入っていないのです。

関東以北はしょうゆ・ソースづけ

香の物というと、これにしょうゆをかけるのが関東のしきたりなのでしょうか、せっかくの香の物に化学調味料としょうゆをかけられ、「さあどうぞ」といわれることがよくあります。関西の割烹店でこれをやったら、さぞかし嫌われることでしょうに。

カレーライスにソースをかけたり、焼き魚にしょうゆをかけたりする人もよく見かけます。なんでも塩やしょうゆの味に変えてしまうという、すさまじい塩食い人種が関東や東北にはいっばい住んでいるようです。濃厚な味つけになれてしまった人にとって、塩分制限はかなりつらいものです。次に、うす味でもおいしく食べられるコツです。

新鮮な材料を使う

貝類、魚、野菜、くだものなど、食べ物本来の香りやウマ味を生かす方法があります。小鮮度のうす昧もち味にしたほうがかえってもち味がいきおいしいはずです。

熱いものは熱く冷たいものは冷たく

料理がおいしいという条件には、味加減だけではなく、適当な温度というものがあります。シュウマイや天ぶらは、冷えてから食べたのでは風味がなくなってしまいます。逆に冷たいそうめんや冷や奴などは、生ぬるくてはおいしくありません。十分に冷やすことで味がひきたつものです。

酸味を活かす

大根やカブなどの野菜は、食塩をまぶすのではなく、レモンづけや酢の物、レモン蒸しといったぐあいに、工夫するとよいでしょう。レモンにかぎらず、ゆず、だいだい、すだち、トマト、リンゴ、ミカン、パイナップルなどの酸味もおおいに味わってみて〈ださい。

うまみのある材料を使う

だしこんぶ、かつお節、貝、干ししいたけや、野菜スープ、チキンスープなど、天然のウマ味成分を利用します。これらを煮物や蒸し物、あんかけ料理に使えば、塩分をひかえても十分おいしくいただけます。
割り醤油を使う方法もおすすめです。

香味料も

料理によっては食塩を使わなくても、それにかなった香辛料はいくつもあるのです。コショウ、ワサビ、トウガラン、カレー粉、サンシヨウなどさまぎまです。
世間では刺激性のものはいけないという風潮がありますが、腎臓が特に悪くないかぎり、食べ物に香りをつける程度であれば、香辛料を使って悪いはずはないのです。

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1 日の食塩量

1日当たりの食塩制限量は、血圧が高くない人で10g、血圧の高い人では7gです。この分量は、「調味料としてこれだけ使ってよい」うのではなく、みそ、しょうゆはもとより、ちくわ、食パン、かん詰めなどの加工食品に含まれる食塩も全部合わせてこれだけという意味です。

1gの食塩量

  • 食塩
    小さじ1/5
  • しょうゆ
    市販品なら小さじ1減塩しょうゆなら小さじ2
  • あかみそ
    大さじ1/2
  • 白みそ
    大さじ1

7gの塩分でも多い

世界公認の食塩量は健康人で5g

欧米諸国では循環器疾患にかからないための食事が考えられていますが、いずれも食塩の量は、血圧が高くない人でも1日5gが好ましいとしています。WHO世界保健機関)の提言も同じです。日本だけが、これを10gとしています。もともと、健康を維持するために必要な食塩量は、1日1g以下であろうというのが栄養学の常識です。どうして日本だけが10gとしたのかという大きな理由は、日本人が「塩食い人種」といわれるほど塩を多量にとる食習慣をもっているからです。ここで一気に「5gが望ましい」としても、実行はおぼつかないというのが実情なのです。

これらの塩分量は、予防の場合です。それでは実際に高血圧になった場合には、どのくらいが適当でしょうか。欧米では食塩を1日に6gという厳しい制限となっています。日本では、現状を踏まえて、7gを目標としていますが、国際通念からするとまだまだとりすぎるのですから、この程度の制限で弱音を吐いてはいけません。

降圧剤よりも食事に注意するのが基本

血圧を下げるのは「食事」という意識

高血圧の治療に、なにをおいても欠かせないのが食事療法です。統計によれば、血圧が高いのに食事に注意していない人は、注意を守っている人に比べて、命をなくす率が2倍も高いのです。
食事をルーズにして、副作用のある薬にとびつくのは大きな間違いです。

高血圧の食事で最も重要なことは、食塩の制限です。これは単に血圧を下げるだけではなく、降圧薬の効果を強め、使用量を減らすためにも、また、血圧の不慮の上昇を防ぐためにも有効です。
最近の研究では、胃ガンの原因も塩分の過剰摂取がだと言われています。

塩分の過剰摂取はガンのリスクを高める | ガン予防のための習慣
https://www.malignant-t.com/archives/59

食塩制限もせずに、利尿降圧薬だけに頼ろうとすると、糖尿病や痛風を誘発したり、体内のカリウムが減って心筋棟塞がおこりやすくなります。

食塩を制限

食塩のとりすぎは、高血圧の発生と深い関係があります。食塩の制限なしに高血圧を治そうというのは、あたかも底の抜けた桶に水をためようとするのに似て、きわめて効率の悪い話です。

1日10g以上も食塩をとる習慣を是正しないことには、どんなに強力な降圧薬を使っても、非常に効きめが悪いだけではなく、降圧薬をふやせばそれだけ副作用の心配が出てきます。

もし、厳重な食塩制限( 1日5g以下) を守れたとすると、軽い高血圧であれば、それだけでみごとに血圧は正常に戻ります。高血圧の人のなかには、このように薬をのまなくても、食塩を減らしただけで血圧が下がる場合がけっして少なくありません。

もちろん、降圧薬を使わなければならない高血圧の場合でも、食塩制限がきちんと行われているのといないのとでは、治療効果がまったく違ってきます。
たとえ降圧薬でふだんの血圧が下がっていたところで、食塩を制限していないと、寒冷や精神的ストレスなどを受けたとき、血圧は突然に急上昇してしまうのです。

肥満の解消

太っている人は、血圧が無理に押し上げられています。この肥満状態を治さないかぎり、降圧薬をのみ続けていても、思うように薬が効かない場合がよくあります。しかし、1kgでも2kgでもやせれば、血圧はそれだけ低下します。

太らない食事をする | 高血圧の治療と日常生活・食事
https://www.b-pressure.info/?p=87も同時に習慣化してしまうのがポイントです。

カリウム(野菜・果物)をしっかり摂る

カリウムは、体内でナトリウムと反対の作用を発揮します。つまりカリウムがあると、ナトリウムは悪さをしにくくなるのです。しかもカリウムは、細胞内にたまっているナトリウムを外に追い出す作用をもっています。
したがってカリウムの多い食品をとれば、食塩の害が緩和されて、血圧降下におおいに役立つわけです。なお、利尿降圧薬を服用している人は、薬の作用でナトリウムといっしょにカリウムも排泄されてしまうので、積極的にカリウムを補給しましょう。

たんぱく質をしっかり

たんばく質の不足が、高血圧や脳卒中の発症に拍車をかけることが知られています。成人の1日の必要量は、体重1kg当たり1gム以下です。
動物性たんばく質と植物性たんばく質を半々ずつ、また動物性では、肉類と魚類を半々ずつとるのが理想的です。

脂肪とコレステロール

高血圧の人は動脈硬化をおこしやすいのですが、さらに血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、動脈硬化がいっそう促進され、狭心症や心筋梗そく塞をおこしがちです。
コレステロールや中性脂肪をふやす働きをするのは飽和脂肪酸(主に動物性脂肪で、バター、ラード、ヘット、生クリームなど) ですから、
これらをとりすぎないように気をつけましょう。なお多価不飽和脂肪酸(主に植物性脂肪で、ペニバナ油、コーン油など、ほかに魚油もある) はコレステロールを下げる働きをします。
ただしこの場合も過剰摂取は禁物で、他の脂肪とのバランスが大事です。そのほか、砂糖や果糖をとりすぎると中性脂肪がふえます。気になる人ま、菓子頃、ジュース、くだものの過剰摂取がないか見直します。

脂質は質と量を考えて摂る | 中性脂肪を下げるための知識と習慣
https://www.neutralfat.info/2014/09/12/%E8%84%82%E8%B3%AA%E3%81%AF%E8%B3%AA%E3%81%A8%E9%87%8F%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%A6%E6%91%82%E3%82%8B/

あたりもとても大切です。

降圧薬の使い方

降圧薬の使い方についてを紹介します。

複数の薬を使う

もともと降圧薬治療は、長期にわたって続ける必要があります。初めは、1つの薬を少量使いますが、思うように効果があらわれない場合、1種類の薬のみ量をふやすと、長い間には副作用が出てくるおそれがあるので、量をふやすのではなく、降圧の作用が違う他の降圧薬と併用して、それぞれの使用量は少なくても、降圧効果を大きくしていくのが良策です。

このごろ、「医者は薬をたくさん使いすぎる」という批判がありますが、正しい降圧薬治療というものは、2種類以上のものを上手に組み合わせて使うじようとうのが常套手段です。この点は、学会から以下のような、おおざっぱなガイドラインが提案されていますので参考にしてください。

  1. 薬物の特徴および副作用を正しく把握し、各患者の病態にあわせて最も適するものを選択する。
  2. 第一選択薬として適する薬物は、カルシウム桔抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体桔抗薬、少量の利尿薬、β遮断薬、およびα1遮断薬である。
  3. この中の1薬を少量から投与して緩徐な降圧を図る。効果不十分な場合相加・相乗効果が期待できる薬物を併用するか、他薬に変更する。
  4. 降圧目標を達成できない場合は、高血圧専門家の意見を求める。

副作用が起きないように

降圧薬でうまく血圧が下がっているから、この薬さえのんでいればよいというわけにはいきません。というのは、効用と同時に副作用が問題になってくるのです。
この点について医師はかなり気をつかっており、血圧が期待どおりに下がっていても、頻回に問診、診療をくり返し、定期的に血液検査を行っています。

降圧薬の向き・不向き

降圧薬種類 積極的な適応 禁忌
カルシウム拮抗薬 高齢者、狭心症、脳血管障害、糖尿病 心ブロック(ジアルチアゼム)
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 糖尿病、心不全、心筋梗塞、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管障害、高齢者 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 ACE阻害薬と同様、特にせきでACE阻害薬が使用できない人 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄
利尿剤 高齢者、心不全 痛風、高尿酸血症
β遮断薬 心筋梗塞、狭心症、頻脈 ぜんそ く、 心 ブロック、末梢循環不全
α1遮断薬 脂質代謝異常、前立腺肥大、糖尿病 起立l封監血圧

降圧薬の種類

血圧値以外の病態にかなった処方がポイント

現在使われている降庄薬は数多くあり、それぞれ血圧を下げるしくみは千差万別です。また同一薬剤でも、何種類もの働きをもつものがあります。
これら数多い降圧薬のなかには、降圧作用が弱いものから強力なものまでいろいろありますし、心臓や腎臓機能に対する作用もまちまちです。
元来、血圧を下げる目的は、脳卒中や心筋梗塞、尿毒症の防止にあるのですから、血圧は下がったけれども腎臓機能が低下したというのでは意味がないのです。
そして原因のはっきりしない本態性高血圧の場合には、複数の因子が互いにからみ合って血圧を上げているのですから、特に心拍出量が増加している場合はこれを是正するために、また交感神経緊張が高ぶっている場合はこれを是正するために、というぐあいに、目的に合った降圧薬を使うのが理にかなっています。

ですから、同じ高血圧の人でも、その人にいちばん通している降圧薬を選ぶ必要が出てきます。これはたいへんむずかしい点で、自分の血圧が高いからといって、薬局でかってに降圧薬を買ってくるわけにはいかないのです。血圧値だけではなく、心臓や腎臓に障害があらわれていないか、眼底はどうかなど、必要な検査を含めて慎重な診察で、高血圧の特性を見きわめないかぎり、正しい降圧薬治療はできません。

どんな降圧剤があうか

医学や薬学の進歩によって、以前は数少なかった降圧薬が、今では種類も、増え、新しいものがたくさん出回ってきました。代表的な血圧を下げる薬剤はこちらです。
このうち最近は、特にβ遮断薬やα1遮断薬( いずれも交感神経抑制薬)、カルシウム括抗薬、ACE阻害薬がふえてきました。逆に中枢作用性恥刺激薬、末梢作用性交感神経抑制薬、直接血管拡張薬は、現在あまり使われていません。なお、古くからあった利尿薬は、今でも広く使われています。

  • 利尿薬
    腎臓からのナトリウム排泄を促すことで細胞外液量が減って血圧が下がる。長く使っているうちに、細胞外液量はもとに戻り、今度は末梢血管抵抗が低下することで血圧が下がる。
  • 交感神経抑制薬
    交感神経が緊張しても、心臓の活動性を増やさない(β遮断薬)、いまあは血管抵抗を増やさない(α1遮断薬)ことによって血圧の上昇を防ぐ。
    中枢神経系のa2受容体を刺激することにより塩心性交感神経活動を低下させる。
    あるいは交感神経末端からのノルエピネフリンの遊出を抑制したり、カテコラミンを減少させる。
  • 血管拡張薬
    細胞内へのカルシウム涜入を阻止することにより血管平滑筋を弛緩させる。冠状動脈だけではなく、末梢細動脈を拡張させて血圧を下げる( カルシウム桔抗薬)アンジオテンシンⅡ 産生抑制、アルドステロン分泌抑制によって、末梢血管を拡張させて血圧を下げる(ACE阻害薬)直接血管を拡張して、血管の抵抗を低下させることによって血圧を下げる

治療の原則

高血圧の治療には、降圧薬を使って積極的に血圧を下げる場合と、降圧薬は使わずに食事や暮らしの工夫だけで血圧を下げる場合とがあります。もちろん降圧薬を使う場合も、食塩制限や肥満是正、運動といった生活習慣の修正は必要です。ではどういった高血圧が薬を必要とするのかというと血圧値がある程度高く、一般療法では効果がないという判断された場合です。

臓器障害や心臓・血管病があると高リスクになる

  • 心臓
    左室肥大、狭心症、心筋梗塞の既往、心不全

  • 脳出血、脳梗塞、一過性脳虚血発作
  • 腎臓
    タンパク尿、腎障害、腎不全
  • 血管
    動脈硬化性プラーク、大動脈解離、閉塞性動脈疾患
  • 眼底
    高血圧性網膜症

危険因子や合併症により治療方針が異なる

  • 低リスクの場合
    遺伝要因がなく高血圧による臓器障害がなければ生活習慣で正す。
  • 中等リスクの場合
    降圧剤の使用
  • 高等リスクの場合
    降圧剤の使用

血圧はどこまで下げるか

高血圧の人は、若い人でもないかぎり、高血圧を指摘された時点では、大なり小なり、ある程度の血管病変を合併しているものです。
こういう場合、うかつに理想の血圧値まで降圧すると、臓器の血流が減って、機能低下をおこすはめになります。そういう意味で、降圧目標を一律に決めるわけにはいきません。
その人の年齢、臓器障害の程度、治療前の血圧値などを考慮に入れて、その人その人について決定していく必要があるのです。

理想の降圧目標

降圧目標は若年・中年者、糖尿病患者の場合は130/85mmHg未満ですが、高齢者の場合は年齢を考慮して140~160以下/ 90mHg未満です。
また臓器の側からみると、血管病変の結果、狭くなった血行路を十分に血液が流れるためには、血圧はあまり低いと困るのです。つまり血圧は、臓器血流の原動力でもあるのですから、たとえば腎臓に障害がおこっていて、血液中の尿素窒素やクレアチニン値が高くなればなるほど、降圧の目標値も高めというところでがまんせざるをえません。
しかし一方で、血圧をある程度下げると腎臓の負担がとれて、腎機能が降庄前より改善してくることも多いのです。

血圧を理想値まで下げてはいけないというルールは脳についてもいえます。脳という臓器は、100gについて、1分間に五50mmの血液を流す必要があります。
そして、脳血流を保っ血圧が必要以上に上がると、脳動脈が収縮して血液の流れすぎを防ぎ、逆に血圧が下がったときは、脳動脈が拡張して必要な血流量が減らないように、自動調節機構が働いています。

ただし、高血圧によって脳動脈に硬化がおこり、動脈の内腔が狭くなると、必要量の血流を保つためには、正常血圧の人より高めの血圧が要求されているのです。
つまり、脳卒中の既往歴をもっている人や、眼底所見が進んでいる人の血圧を下げるときは、それなりの注意を必要とします。

要するに、臓器障害があっても高血圧は是正するのが正しいのですが、降圧目標は理想の血圧値よりやや高めの点にねらいを定めるのが常識です。といって、降圧しすぎを心配するあまり、降圧目標を高めに評価しすぎては、これまた降圧薬治療の目的を達しえないという、実にむずかしい責任が医師にかかっているのです。そのほか、やっかいな問題がいくつかあるのです。その一つは、病院や診療所では、家庭にいるときより血圧が高めになるということです。

もう1つやっかいなのは、目標の血圧値まで一気に下げると、臓器の側で低めの血圧に順応する余裕がないため、かえって血圧を下げたことによる疲労感や不調感がおこる点です。したがって降圧は一気にするのではなく、数週間から2~3ヶ月かけて、徐々に下げていくことがたいせつです。

治療効果

血圧を下げれば、血管の傷み方が違う

高血圧を治療しないでほうっておく、動脈の傷つき方が早く、脳卒中や心筋梗塞にかかります。この動脈系の傷みは全身一様におこるわけではありません。
高血圧以外の因子とのからみで、傷みやすい部位はそれぞれ違っています。しかし生命をおびやかす動脈の傷みというと、脳と心臓と腎臓で、高い血圧を下げないでほうっておくとたいへんな結果になるのです。それでは、血圧を下げたらどのくらいメリットがあるのかというと、とにかく心不全、脳卒中、腎臓障害はみごとに予防されます。

欧米では、血圧を下げても心筋梗塞や急性心臓死は思ったほど減らないといっていますが、こういった病気は高血圧以外に発病を進める因子がたくさん関係していて、特に栄養過多の欧米では、血圧を下げただけでは焼け石に水のようなものですから、それは当然の話です。
この点については、「日本人に生まれてよかった」ということができましょう。というのは、現時点の日本人は、コレステロール値も血糖値も、欧米並みに達してはいないからです。つまり血圧を下げる効果は、それだけ大きい意味をもっているということです。

治療を中断すると逆効果

ところで欧米では、最小血圧が90~114mmHgという場合、治療しないていると、5年間で50%も脳や心臓の病気が発生しますが、これをきちんと治療していると、18%におさえることができるという調査がなされています。

日本人についての調査でも、きちんと治療を続けている人は、脳や心臓の事故をおこしにくくなることがわかっています。ただここで問題となるのは、かってに治療を中断してしうと、かえって脳や心臓の事故がおこりやす〈なるということです。つまり高血圧の治療が必要だと判断された場合は、長期にわたって治療を続ける必要があるという結論です。

合併症その2

高血圧+高栄養は注意

高血圧によりひきおこされる心臓病は、心筋梗塞だけではありません。急性心臓死や、狭心症、急性慢性心不全など、いろいろの心臓病があります。血圧が高いとき、こういう病気の発生が正常血圧の人の2倍以上もおこることがわかっています。
元来、心筋梗塞で代表される冠状動脈硬化症は、栄養がよすぎる欧米で高率に発生するものの、かつての日本のように栄養が悪い国ではあまり発生しません。

現時点の日本では、生活水準と生活習慣が微妙にからみ合って、同じ日本人でありながらその人の栄養状態はまちまちです。このごろ、太っている人がふえてはきましたが、動物性食品のとりすぎで太っている人は別として、穀類やイモ類のとりすぎと運動不足のために太った人の栄養は思ったほどよくないのです。たとえば地域の農山村にあっては、太っているのに血清総コレステロール値はむしろ低いというケースがまれならずみられます。

このような栄養背景におかれた日本の地域集団では、心筋梗塞の発生があまり多くないのが実態ですから、古い日本の地域調査では、心筋梗塞の疫学成績が十分そろっていませんでした。

しかし現在では、血清総コレステロール値が高いということは、高血圧と相まって心筋梗塞の危険因子として重要視されています。そして、血圧値が上がるほど、またコレステロール値がふえるほど、心筋梗塞や急性心臓死も増加することがわかっています。

その他の危険因子

さらに、血圧とコレステロールだけでなく、タバコ、左心室肥大、糖尿病、高齢という別の危険因子をもっている場合には、かなりの高率で心臓病にかかることがわかっています。
要するに、血圧がたいして高くないから自分は心筋梗塞の心配がないといばっていられたのは昔のことで、今の日本で栄養がよすぎる人は、コレステロール値も高めだし、糖尿病を合併している可能性も大きいので、血圧がたかだか140mmHg程度でも、心筋梗塞をおこす危険があるということです。

高血圧の人は、正常血圧の人より、2倍以上も心臓病にかかる率が高くなっています。つまり、それだけ心臓に負担がかかっているのです。

合併症その1

脳出血は栄養が偏っているときに起きる

脳卒中という病気は単一な疾患ではなく、いろいろな種類がありますが、代表的なものは、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血の3つです。
脳出血は、脳の細動脈壁がもろくなって壊死に陥り、これが血管内圧に耐えかねて破裂し、脳実質内へ出血した状態です。

このタイプの脳卒中は欧米ではほとんどみられないのに、日本では現在でもけっこう発生しています。もちろん栄養が悪かった以前の日本では、「血圧が高ければ脳出血」といわれたくらいに多発していたのです。

ところで脳出血は血清総コレステロール値が低い地域に多発する特徴がみられます。また同じ地域集団でも血圧が正常なら脳出血はほとんど発生しませんが、最大血圧200mmHg以上とか、最小血圧110mmHg以上という群からは、かなり高率で脳出血がおこります。ここで重要な点は、血清総コレステロール値が160mg未満という場合、に比べて、220mg以上という群からの脳出血の発生は半分以下ということです。

これは、高血圧による細動脈・えし壊死が低栄養のときにおこりやすいということを暗示しているのです。つまり高血圧といわれたとき、血清総コレステロール値が低い人は、積極的に栄養をとらないと脳出血をおこすという意味です。

脳梗塞は栄養がよくても悪くても起きる

脳梗塞とは、脳血栓と脳塞栓とを一括した病名ですが、頻度のうえでは脳血栓が圧倒的に多いと理解してよいでしょう。

脳血栓という病気は、脳動脈の粥状硬化症、つまり動脈壁にコレステロールがたまるタイプの動脈硬化症を基盤に発生するタイプと考えられています。しかし日本では、脳の細動脈硬化症を基盤として発生するタイプがまれならずあります。日本の地域調査で、血清総コレステロール値が低い地域に脳梗塞が多発す

経過

高血圧をそのままに放置しておくと心臓や動脈に無理がかかるために、それだけ早く傷みます。血圧が高いと脳卒中や心筋梗塞にかかりやすいといわれますが、そのとおりで、脳の細動脈が壊死に陥ると脳出血がおこり、脳の細動脈硬化や脳動脈の粥状硬化が進むと脳梗塞がおこります。

また、冠状動脈の粥状硬化が進むと狭心症や心筋梗塞がおこるのです。高血圧の人の寿命をみると、血圧値が高いほど死亡率が高いし、同じ高血圧でも、眼底所見が進むほど死亡率も高くなります。

また心電図検査をして、左心室の肥大があればあるほど死亡率が高くなります。そのほか、高血圧とは特に関連がないと思われることでも、これが高血圧と複合的に重なると、高血圧の死亡率が高まることが知られています。

危険因子が多い人ほど狭心症や心筋梗塞をおこしやすい

危険因子

  • 高血圧
  • 喫煙
  • 高コレステロール血症
  • 糖尿病
  • 高齢