肥満判定
高血圧で肥満している場合は、降圧薬が効きにくく、といって降圧薬の量を増すと、長期の連用で副作用の心配が出てきます。また太っていると、高血圧による心臓の傷みを助長しますし、血清脂質(コレステロールや中性脂肪)や尿酸値を高める可能性がありますから、肥満は是正する必要があります。
ところで、肥満度の判定の基礎となる標準体重の算出法はいろいろです。そのために同じ身長でも、異なった方法で算出された標準体重はそれぞれ違っているのです。
特に【身長(cm)-100】というブローカ方式や、その値に0.9を掛けたブローカ変法では、背の高い人は太っているのによりスマートに、背が低い人では太っていないのにより太りぎみに判定されてしまいます。
その他の方法でも、骨太の人や筋肉質の人では、脂肪が多くないのに体重は重いので、肥満度の計算では肥満体と誤まられがちです。また、高齢になると体組織の萎縮によって体重は減りますが、脂肪組織は体重のわりには減っていません。
こういう理由で、肥満度を正しく判定するためには、皮厚(皮下脂肪の厚さ) をはかるのがいちばんです。しかし測定の技術がむずかしく、また誤差が大きいきらいがあります。
近年は、体脂肪計で脂肪率を計測する方法も普及しつつあります。また、体内のどこに脂肪が集まっているかにょって、W( ウェスト)とH(ヒップ)比をはかり、洋ナシ型とリンゴ型に分ける肥満判定もあります。
尿検査
一般には、たんばくと糖、潜血反応の3項目を検査しますが、ほんとうは潜血反応でなく沈渣をしらべるのがよいのです。
これは沈渣のなかに白血球が多ければ、腎孟腎炎発見の手がかりとなるからです。
沈渣のなかに赤血球が多くみられるのは、各種腎炎の診断の手がかりとなりますが、尿たんばくが痕跡程度なのに赤血球が多数みられるときは、腎結石による片腎性高血圧の疑いが出てきます。
なお尿たんばくについては、血圧値のわりに著明なら腎実質性高血圧が疑われ、血圧値のわりに少なければ、高血圧による腎障害と判断されます。
尿糖をしらべるのは、糖尿病発見の手がかりをつかむためですが、同時クッシンググ症候群や褐色細胞腫の一兆候でもあります。特に高血圧の人に糖尿病病が合併すると、粥状硬化が進んで、心筋梗塞や脳卒中のおこり方が多くなるので、これは重要な検査です。
いずれにせよ、食後2時間めの採尿が理想的です。これは、糖代謝障害があっても、空腹時や食後時間がたっている場合は、血糖値がより低めですから、尿に糖が出てきにくいためです。食後の血糖値は1時間前後で最高に達しますが、血糖が上昇して腎臓からは糖が排泄され、膀胱に十分たまるのを待って採尿するというわけです。
血液検査
血液沈降速度(血沈は、促進しているからといって特定の病気を意味しているわけではありませんが、大動脈炎、腎孟腎炎、膠原病などの手がかりとなります。また血栓形式の促進因子であるフィブリノーゲンがふえると、血沈は促進しがちです。赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、白血球数は自動算定装置で一度にはかれます。これで貧血や赤血球増多症の有無がわかりますが、特にへマトクリット値の増加は心筋梗塞の危険因子として重要視されます。たとえば、ヘマトクリットが50以上の群は42未満の群にくらべ冠動脈疾患は2倍以上にふえることが、プエルトリコの調査で証明ずみです。血糖値は、前述のように糖尿病診断の手がかりとして、またクッシンング症候群や褐色細胞腫の参考資料としての意義をもっています。なお糖尿病は、脳卒中や心筋梗塞の重大な危険因子の1つです。
血清生化学的検査
血清カリウムは、高アルドステロン症の診断の手がかりとしての重要性と、利尿降庄薬の副作用チェックの意味をもっています。アルドステロンは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種で、これがふえると、一見、本態性高血圧と似た高血圧が発生します。
低カリウム血症では、心筋内のカリウムが減り、心筋に虚血が生じたとき壊死に陥りやすいので危険ですし、また脳卒中で片まひをおこしている場合は、回復していた手足のまひが悪化することもあります。
血清総コレステロールがふえると、冠状動脈硬化症が進みますが、同時に血液粘調度も増すので、血栓をつくりやすくなる危険があります。しかし逆に血清総コレステロールが少ないと、脳出血や脳血栓にかかりやすいことが日本の疫学調査でわかっています。
したがって血清総コレステロール測定は、高血圧の生活指導に重要です。近ごろHDLコレステロール(善玉コレステロール) が注目されていますが、血清総コレステロール値が高くないなら、ことさらHDLコレステロールをしらべる必要はなかろうという考え方もあります。
中性脂肪についても、血清総コレステロールが高くなければ検査の必要はないという考え方があります。もししらべるのであれば、食後10時間以上の絶食後に採血することがたいせつです。
また飲酒習慣のある人は、3~4日の禁酒を守ったうえで採血します。この注意を守らないと、中性脂肪が高値を示しても意味づけができません。
血清尿素窒素やクレアチニンは、腎機能障害の程度の指標となりますが、重篤な肝障害があると、腎機能が低下していても尿素窒素は増加しません。これらは腎実質性高血圧の診断には有用ですが、高血圧による腎臓の二次的障害をみる目的では、感度が鈍感すぎて役に立ちません。血清尿酸値は、痛風の診断や利尿薬の副作用をみる目的で検査します。
腎機能検査
腎臓は、血液中の異物を排泄する働きがあり、この働きぐあいをしらべるのがPSP検査です。これは、フェノールズルフォフタレインという赤い薬液を静脈内注射して、尿中への排泄量を調べることで腎機能を知る検査です。
特に静注後15分めの尿中排泄量は、腎血環流量と関連が深いので、有用な検査です。ただ血清尿素窒素がふえているときは、クレアチニン・クリアランスという検査でないと、実際の役には立ちません。
また、腎臓は尿をこす作用がありますが、これは腎機能障害の初期段階で低下するので、尿濃縮試験は有用な検査ですが、水や電解質の異常がある場合や、水分制限を禁忌とする病気をもっているときは、検査するわけにいきません。腎臓の尿細管疾変については、尿中のβ2マイクログロブリンやNAG(尿細管細胞逸脱酵素) をしらべることで診断されます。
眼底検査
高血圧症による細動脈病変を直接にしらべる検査で、特に脳出血や脳梗塞の危険因子でもあるところから、たいせつな検査です。眼底所見の把握には、眼底鏡による方法と、眼底カメラで写真記録する方法と2通りあります。
心電図検査
心電図検査は、高血圧による心臓合併症の発見と、脳卒中や心筋梗塞の危険因子としての心電図異常有無をみる目的で検査します。これも安静時の検査にとどまらず、年齢や既往歴、自覚症状などから冠状動脈硬化症が疑われる場合は、運動負荷時の心電図も記録されます。
胸部レントゲン検査
これは高血圧のスクリーニング検査というより、むしろ臨床全般としてのスクリーニング検査です。もちろん心臓陰影や大動脈陰影の異常は、それなりの意義をもっています。
静脈性腎盂造影
近ごろはスクリーニング検査として省略されがちですが、腎血管性高血圧や片側萎縮腎による二次性高血圧の診断の手がかりとして有用ですから、既往歴その他でこれら疾患の疑いがあるときには、省略できない検査です。