運動

運動をすれば血圧は上昇する

肉体労作をすれば血圧、脈拍ともに上昇します。同じ運動量を負荷したときの血圧値や脈拍数の増加は、高齢になるほど、程度も大きくなるものです。
しかも同じ年齢でも、高血圧の場合は正常血圧に比べて血圧や脈拍の増加は大きいのです。これは、活動中の筋肉がより大量の酸素を消費しているため、十分な血液を供給する必要があるからですが、その結果、肺と心臓はそれだけ負担を受けることになります。
このことから、かつては、ふだん血圧が高い人や、心臓の冠状動脈に硬化がある人は、なるべく安静にしているべきだという考え方をしたものです。

日頃から体を動かす習慣があれば

心筋梗塞にかかりにく

しかしその後の調査では、よくからだを動かしている人は、あまり動かさない仕事の人に比べて、心筋梗塞にかかりにくいことがわかってきました。

たとえば、ロンドンのバス会社の調査では、運転手のほうが車掌より高率に心筋梗塞をおこすことが知られています。これは、車掌は二階だてのバスを昇ったり降りたりしているのに対して、運転手は座ったままで、しかも交通事情の悪い市内をストレスだらけで運転しているという点に、違いがあるのだろうと推測されています。
米国の鉄道職員の調査でも、からだを動かさない事務職は、保線区手の二倍も多く心筋梗塞にかかることがわかりました。

動脈硬化が進みにくい

実際に冠状動脈の狭窄度を測定した研究によると、労働している60歳代の人は、冠状動脈が75%以上も狭くなっているものは34パーセントですが、運動不足の人では50%もいるのです。
これは、労働していると、冠状動脈硬化が進みにくいことを示しているのです。

心臓に負担がかかりにくい

ところで、ふだんよくからだを動かしている人の血圧値や脈拍数は、安静時はもちろんのこと、運動したときもあまりふえないということが知られています。

この点について高血圧の人を2群に分け、一方は自転車による運動訓練を、1回60分当て週3回ずつ行い、一方はあまりからだを動かさない生活を続けて、10週間後に血圧値を比べた研究がありますが、その結果は、運動訓練を行った場合は、最大血圧も最小血圧もみごとに下がりました。

高血圧症の危険な合併症である心筋梗塞が、運動している人に発生しにくく、その1つの理由として、冠状動脈硬化が運動している人には進みにくいことは説明したとおりですが、もともと心筋梗塞という病気は、心筋の酸素需要を満たすだけの血液が供給できない結果おこるのです。この血液は冠状動脈を通って心筋へ供給されるのですから、冠状動脈の硬化が進んでこなければ、それだけ安全というわけですが、実は運動訓練をした心臓は、同じ負荷の運動に際して、鍛練していない心臓よりも酸素消費が少なくてすむのです。つまり狭心症や心筋梗塞にかかった場合のリハビリテーションとして、運動訓練が重要視されている理由もここにあるのです。

要するに高血圧の人にとって運動訓練は、ふだんの血圧を下げ、労作のときの不慮の血圧上昇を防ぐうえで非常に有効なのです。

運動は心臓を強くする

同じ仕事をしても、日ごろ運動でからだを鍛えている人の心臓は、酸素をあまり消費しません。その理由は、心臓自体にあるのではなく、鍛練した筋肉にあるのです。

運動や肉体労作をすると、新陳代謝が増加した筋肉系へ十分な血液を供給するため、心臓の活動が盛んになります。こうして運動や肉体労作をくり返し行っているうちに、鍛練された筋肉は、血液のなかから、より有効に酸素をとり込むコツを覚えるのです。
つまり、筋肉の新陳代謝が増加しても、それに必要なだけの酸素をとり込むのに、そんなに多くの血液はいらなくなるのです。ということは、それだけ心臓の負担も少なくてすむという結果になります。これがトレーニング効果です。

同じ仕事をしても、日ごろ運動をしている人は、血圧値も脈拍数も、あまりふやさずにすみます。なお運動訓練は、1週間に1度や2度やっても効果はあがりません。
せめて週に3回は必要です。歩行という軽い運動なら、毎日、それも6kgぐらいは歩かないと効果は得られません。

運動の効果

運動訓練を続けていると、血圧や脈柏のほかに、血液の脂質が改善します。つまり、血清の総コレステロール値やLDL( 悪玉)コレステロール、中性脂肪は減り、HDL(善玉)コレステロールがふえてきます。このことは、血圧が下がることと相まって、粥状硬化症の進展に歯止めをかけるのです
HDL・LDLコレステロールについてはこちら。

また血液が血管内で凝固しにくくなけっせ人りますから、血栓症をおこしにくくもこうそくなります。これは、脳梗塞や心筋梗塞の予防にたいへん重要なことですが、心筋梗塞の予防については、さらに冠状動脈のバイパス(副血行路)が運動で発達してくることも関係しています。

血圧の高い人が運動をするメリット

  • ふだんの血圧が下がる
  • 肉体労働をした際に血圧が上昇しにくい
  • 血液の凝固性亢進がおさえられ血栓が溶けやすくなる
  • 糖の代謝異常が是正される
  • 冠状動脈のバイパスが発達し心筋梗塞にかかりにくくなる

高血圧の人に最適な運動

運動であれば、どんな運動でも健康増進に役立つと考えるのは間違いです。筋肉を鍛練すれば確かに筋力は増大しますが、高血圧の人が必要な運動というのは、筋力をつけることではなく、血圧を下げ、脈拍数を減らし、心筋梗塞を予防するところに目的があるのです。

ということになると、同じ運動でも、これにかなったものもあれば、一方で、この目的には合わないものもあるのです。どんな運動が適しているのかというと、水泳、テニス、体操などの全身運動や手足を屈伸させる種類のものがよいのです。
ジョギングや自転車こぎといった、主として下肢の運動も向いています。これは、下肢のほうが上肢よりも筋肉が多いので効果があがりやすいのです。ともかく、筋肉を収縮させて手足をよく動かすことが重要です。これらの運動は、筋肉に力を入れたとき、筋肉の長さは、伸びたり縮んだりしており、筋肉自体の緊張度は変わりがありません。これを等張性収縮と呼びます。

避けたい運動

力がいるわりに動きが少ない運動

同じ筋肉の運動でも、筋肉は緊張するが筋肉の長さは変わらないタイプのものがあります。これは等尺性収縮と呼ばれ、筋肉は突っ張っていても、手足は屈伸しないという状態です。たとえば、鉄棒でひじを曲げてじっとからだをつり上げているときや、重量挙げで両腕を上げながら重みに耐えているとき、エキスパンダーを伸ばしっきりで支えているとき、水の入った重いバケツを運ぶとき、これらはすべて、筋肉の等尺性収縮運動です。

この筋肉の等尺性収縮では、血圧値も脈拍数もふえますが、特に最小血圧の上昇が大きいという特徴をもっています。一方の等張性収縮では、脈拍数の増加と最大血圧の上昇は大きいのですが、最小血圧の上昇は軽度という特徴をもっています。しかも等張性収縮の運動訓練を続けているうちに、脈拍や血圧の変動はしだいに軽度になってくるという効果があります。

ところが、運動訓練による脈拍や血圧変動の抑制効果は、等尺性収縮による訓練ではおこりません。つまりこの種の運動は、ボディビルの目的ならいざ知らず、高血圧や心筋梗塞のリハビリテーションには使えないのです。

ところで、日常生活のなかで、等尺性収縮を伴う動作がいくつもあります。たとえば、こぶしをぐっと握る動作がそうです。また、ふとんを運ぶ動作も同じです。大きくやわらかいふとんとなると、力をこめてしっかり握らないと落ちてしまいます。このとき、力をこめて握ったというだけで、血圧や脈拍の揺さぶりは大きいものです。朝のふとんの上げ下ろしのときに、狭心症をおこす人がいるくらいです。

団体競技

バレーボールやサッカーなどの団体競技は、健康な人や、合併症のない高血圧の人は別として、脳卒中や心筋梗塞のおそれのある場合は、避けたほうが安全です。というのは、チームが勝つためには、自分を犠牲にしてまで無理をする必要があるからです。

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