姿勢と血圧

急に立ち上がると血圧は上昇する

人間は重力の関係で、立った姿勢でいると血液が下半身にたまります。横になっているときに比べると、500~750mlも多くたまります。
これ以上の血液が下半身にたまらないのは、交感神経が緊張して下半身の静脈が収縮し、たまった血液を心臓へ押し返すからです。
つまり、脳という重要な臓器の血流量が減らないように、手足の血管も内臓の血管もいっせいに収縮するわけです。それにしても循環血液量はたかだか5Lですから、立っているときに下半身に血液が500~750mlミもたまるということは、心拍出量を10~15%も減らしてしまうはめとなり、このままだと血圧もそれだけ下がってしまいます。

それをくい止めるために、動脈系は必死で収縮します。つまり横になって休んでいるときは無理な血管の収縮機構がないので血圧は下がっていますが、休んだあとで急に立ち上がると、最大血圧はやや下がったところで、最小血圧はやや高まったところで安定します。

ただ若い人と違って高齢者では、この下肢の血管反射が鈍っているために、最大血圧の下がり方はやや大きめです。つまり、血圧がストンと下がるために、立ちくらみをおこすことが多いので注意を要します。

危険な立ちくらみ

一般に、立ったときの最大血圧が15mmHG以上も下がったり、立ち上がってから30秒たっても最小血圧が上がってこないという場合には、起立性低血圧と呼ばれます。起立性低血圧がおこっても、脳の血液循環に支障をきたさなければ、特にめまい感などの自覚症状はおこりませんが、

起立性低血圧は、けっしてふだん低血圧の人にだけみられるものではなくて、高血圧の人にもみられます。特に、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧などの症候性高血圧症では、起立性低血圧をおこしやすいのが特徴で、診断の手がかりとして重要所見でもあるわけです。

さてここで問題となるのは、交感神経を抑制する作用機序をもつ降圧剤が、起立性低血圧という副作用をおこす場合があるという点です。ですから、こういう種類の降圧剤を内服している場合は、横になっているときや腰かけているときの血圧値だけでなく、立っているときの血圧をはかってもらうことがたいせつです。特に、立ちくらみという症状をもっている人は、主治医にその旨を伝えることを忘れてはいけません。というのは、脳の動脈硬化がある程度進んでいるときは、こうノてく立位で血圧があまり下がると、脳梗塞をおこす危険があるためです。

メモ

急に立つと、最大血圧が下がるために一瞬くらっときます。健康な人は、手足の血管が反射的に収縮してすぐ元の血圧に戻ります。動脈硬化が進んでいる人は、こんなときに脳梗塞や心臓発作をおこすことがあるので要注意です。

睡眠・休養

睡眠中は血圧が一番低い

血圧は、一定の値を保っているわけではなく、1日のうちでも大きく変動しており、特に精神的・肉体的ストレスが加わっている間は、いつになく高い値を示します。そして、血圧が高ければ高いほど動脈壁の負担が大きくなり、長い経過のうちに、動脈の傷みが進行して、いずれは脳や心臓、腎臓の障害がおこってきます。

このために高血圧は早めに治療する必要があるわけですが、日常生活のなかでも、心身ともにリラックスすれば、血圧を下げることができます。

血圧の高い人にとって、リラックスできる時間をもてばもつほどいいのです。

たとえば不安定に血圧が上がっていても、横になって休んでいると、血圧はしだいに落ち着いてきて、30分もすると眠っていなくても最大血圧が15mmHG~20mmHGも下がるものです。しかもふだんの血圧が高い人ほど、この降圧程度は大きいのです。

ということは、会社の休憩時間を有効に利用して、不安定に上昇した血圧を、20分でも30分でも横になって下げておいたら、それだけ血管の傷みは少なくてすむはずです。

もちろん睡眠時間を十分にとることは、高血圧の人にとっては重要なことです。これは、平均した血圧の値が、睡眠中はいちばん低いからです。仕事をして血圧が高くなり、そのために傷んだ血管が、この睡眠中に修復されるのですから、睡眠という自然の療法をないがしろにしてはいけません。

もともと睡眠量というものは、睡眠時間だけで決まるのではなく、睡眠の時間と深さを掛け合わせた量なので、深い眠りができる人は、睡眠時間が多少人より短くても、十分な睡眠量をとることができます。しかし高血圧の場合は、血圧が下がっている時間が長ければ長いほど、傷んだ血管の修復が十分にいくわけですから、できるだけ睡眠時間は長くとりたいものです。

血圧を下げる睡眠法

床についてもなかなか眠れず、夜間も時々目がさめるという人がいますが、これはからだが疲れていない場合や、神経の高ぶりをおさえる自然の作用が十分に働いていないときの現象です。

日ごろ、仕事もせずに、脳と口だけしか動かしていない人にありがちな現象ですが、ここは、日中にからだをよく動かすことがたいせつなのです。

神経質で寝つかれないというときは、就雇前にぬるめのお湯につかり、副交感神経の緊張を高めるのもよいし、酒好きの人であれば、就最前に軽く1杯やるのもよいでしょう。

ところで睡眠中の血圧をみると、一様に下がっているのではなく、やはり刻々と変動しています。電話のベルをはじめ、神経をいらだたせる雑音が聞こえたり、電灯の光が閉じたまぶたを通して網膜を刺激したりすると、眠っていて意識はしなくても、血圧はびっくりするくらい急上昇します。
この際の血圧上昇は、降圧剤でふだんの血圧が下がっていても、くい止めることはできません。つまり上手に静かな睡眠をとるためには、騒音や光刺激が寝室をおかさない工夫が必要です。

まっ暗な部屋が嫌いなら、豆ランプは天井ではなく足元につけるようにし、雨戸がなければ窓にブラインドをつけるという、ちょっとした知恵が、健康を保つコツになります。
こちらも参考になります。快眠のコツはリラックスすることです。

睡眠一口メモ

睡眠中は、血圧を下げます。軽い高血圧の人なら、日中は血圧が高くても、睡眠中は健康な人と同じ血圧値に下がります。
治療中をみると、日中120~140mmHGの血圧が、睡眠中には100mmHG以下になるのが一般的です。24時間、血圧を測定すると睡眠中に時々、上昇していることがわかりますがこれは、、大きな物音がして血圧が急上昇したものです。静かな環境ではどよく熟睡するのが、上手に血圧を下げるコツです。
旅行に行ったり、入院したときによく眠れないときは血圧が揚げっている場合が多いので血圧が高めの人は十分に注意します。

入浴

お風呂は血圧によくないの?

高血圧の人が浴室で脳卒中をおこすことがあります。このために、「高血圧者に入浴は危険だ」と思っている人もいるくらいですが、実はおふろで事故がおこるのは日本だけで、欧米ではこのようなことはないのです。

つまり、入浴自体が悪いのではなく、入浴のしかたそのものに問題があるのです。欧米ではからだを横たえてお湯につかるのに、日本ではかがみ姿勢で腰を浮かしてお湯につかります。

浴槽が深いほど、水圧がかかり、血圧も上がってしまうのです。もう1つの違いは、お湯の温度です。欧米では浴室が居間と同じ温度で寒くないために、熱いお湯に入る必要がありません。しかし日本では、寒さをカバーするために、熱いお湯でからだが冷えないようにしているのです。体を温めるために熱いお湯に入るということです。

熱すぎるお湯は有害

熱いにしろ、寒いにしろ、いずれも皮膚を刺激すると血圧が上がります。皮膚を刺激しないお湯の温度とは、理論的には体温に近い温度ということで、37~38度というところです。

皮膚が熱いお湯や冷たい水などの刺激を受けると、すぐに血圧が上がります。浴槽につかったとたん、血圧が上がっても、そのうち、からだ中の血管が開いて血圧が下がります。高血圧の人は、熟すぎるお湯と、最後の水かぶりは禁物です。

浴室が冷えきっていると、裸では寒さが身にしみますから、どうしても熱いお湯にからだを沈めて温めようとするわけです。このように熱いおふろに入る習慣が、いつのまにか身についてしまい、冬だけではなく、夏も熱いお湯につかるようになり、おふろとは熱いのが習慣化してしまているのです。

たいていの人は42度以上のお湯につかっているようですが、お湯の温度が42度以上に達すると、皮膚をお湯につけただけで血圧は上昇します。そしてお湯につかっているうちに、全身の血管が開いて、血圧が下がります。からだに熱がこもるにつれ、皮膚の血管が開いて放熱しようとするのですが、体温より高い温度のお湯につかっているからには放熱しようがないし、血圧はどんどん下がってきます。

このままではのぼせてしまうわけで、いい加減なところで浴槽から飛び出し、からだを洗うことになります。ところが洗い場が冷えているために、今度は血圧がしだいに上がってきます。そして寒さを覚える程度までにからだを冷やしてしまうと、血圧は当然のことながら、いっそう高くなっていきます。

脳や心臓の動脈が傷んでいる人では、こんなふうに血圧を上げたり下げたりしているうちに、事故をおこしかねません。ではどうすれば血圧の揺さぶりが防げるでしょうか。

それは、前もって浴室をストーブで暖めておくことです。こうすれば、無理して熱いお湯につかる必要はないのです。浴室の温度については、冬と夏とで快感温度は違いますが、冬のからだは寒さになれていますから、40度前後にしておけば、裸になっても寒く感じません。浴室を暖めておけば、お湯の温度が皮膚を刺激しない程度でも寒くありません。

ただ日本人は、子どものころから熟めのお湯に入りなれているため、37~38度のお湯では物足りないことが多いので、39~40度というところが適当でしょう。

よく、浴室が湯気でいっぱいだから暖かくなっていると考える人がいますが、この湯気こそ寒い証拠なのです。夏には湯気が立たないことを思い出してください。つまり、浴室が冷えているからこそ、水蒸気が凝結して湯気になるのです。

血圧が高い人はこれだけは守る

まず面倒がらずに、寒暖計と湯温計とを用意します。寒暖計では浴室の温度を20度前後に、また湯温計ではお湯の温度を40度前後に管理することです。
こうすれば、入浴による温度の害は避けられます。

次に水圧の害ですが、日本式浴槽に身を沈めるときは、首まで深くつからないで、せいぜい肩が沈むか沈まぬか程度にするのが賢明です。

浴槽の底にお尻をつけて坐るのなら、お湯の量を加減する必要がありますが、適当な腰かけ台を使うのもひとつの方法です。「お年寄りに新湯は毒」とよくいわれます。これは一番湯ほど肌にチリチリして、皮膚を刺激するという意味では感心できないからです。

浴槽のお湯揚は、人が入っているうちに、皮膚の脂肪や有機物で適当にやわらかくなりますから、日ごろ血圧が高い高齢者は、二番湯以降がからだにはよいのです。しかし、バスクリーンなどの入浴剤を入れれば、問題はありません。

ぬるめのお湯は血圧を下げ続ける

熱いお湯に入ると交感神経が緊張し、筋肉も締まり、活動力も増します。これは、昔、江戸の火消衆などが利用した朝湯の効果です。

高血圧の人がこれをまねしてはいけません。熱いお揚に対してぬるめのお湯は、副交感神経が緊張しますから、神経のイライラを解消し、血圧も下がって催眠効果も出てきます。また、肩こりや腰痛などといった筋肉の疲れもとれるものです。この効果は、湯ぎめをしないかぎり、2時間も続きます。特に皮膚の血管を開く効果の大きい炭酸泉につかった場合は、血圧を下げる効果が数時間も続くことが知られています。半身浴は血圧をさらさらにします。

トイレ

寒さだけでない

日本では、寒い冬の間にトイレの中で脳卒中をおこす人が少なくありません。一般の家庭では、居間は暖房で暖かくしてあっても、トイレまで暖めているところは少数です。
セントラルヒーティングのマンションでもないかぎり、トイレは冷えきっているものです。トイレで脳卒中をおこすのは、下半身を寒風にさらす結果、血圧が上がるからだと単純に考えている人が多いようですが、トイレと血圧との関係は、単に寒さだけではなく、もっと複雑なのです。

いきみ動作が危険

ここで、排便時のいきみ動作が血圧にどんな影響を与えるのか考えてみましょう。まず、いきみはじめると同時に、血圧が急激に上昇します。これは、いきみ動作で胸腔内圧が上昇するため、肺内の血液が、いっせいに左心房を経て左心室内へ押し込まれ、左心室内の血液量がいっぱいになるからです。

つまり肺は血液をいっぱい含んだスポンジのようなものですから、これを外圧でつぶすと、肺内の血液が一気に心臓へ送り込まれるわけです。そして左心室が収縮すると同時に大動脈へ押し出される血液量が多いために、これが、急激な血圧上昇に結びつくのです。

もし高齢者で大動脈の伸展性が低下している場合は、このときの血圧上昇はいっそう著しいものです。次に、いきみを続けていると、上昇した血圧はしだいに落ち着き、最大血圧と最小血圧との差( 脈庄)はかなり小さくなります。

これは、胸腔内圧がプラスになっているため、胸腔内へ静脈血が還流しにくくなり、したがって心臓内の血液量が少なくなってきますから、心臓が収縮しても、送り出される血液量も減るというためです。

ここでからだは、血圧低下を防止するために、反射的に末梢の血管を収縮させ、これ以上血圧が下がらないように歯止めをかけます。

ただ、高齢者では、この血管反射機能が鈍っているので、血圧低下の歯止めがうまくかからない場合があります。ところで、いきみを中止して息を大きく吸った直後は、血圧が突然下がります。これは、今まで胸腔内圧がプラスのために押しつぶされていた肺が急にふくらみ、静脈血を肺内にプールするため、左心室へ向かっての血流が、一瞬さらに減るためです。
末梢血管の収縮状態はしばらく続いたままですから、最大血圧も最小血圧も、いきみ前の状態より高めに維持されます。

この血圧上昇は、脈拍調節機構を興奮させ、脈拍数は減ります。ただ高齢者では、血管反射機能の低下のため、血圧の上昇程度は弱いものです。いずれにせよ、いきみ動作時の血圧変動は急激であるだけに、脳や心臓の事故をおこしかねません。

尿意の我慢は血圧を上昇させる

動物実験で尿道から生理的食塩水を押し込んで膀胱壁を緊張させると、血圧は急速に上がります。このように膀胱壁が伸展されると血圧が上がることを膀胱反射と呼んでいます。

ところが膀胱にたまる尿は、片側の腎臓から、1分間に1mlという割合で分泌されてくるので、自然状態では、膀胱が急激にふくらむことはありません。
つまり血圧がひどく上がる直前に、血圧調節機構の働きで末梢の血管が拡張し、これによって血圧上昇はごく軽度にとどまっているわけです。

ところで、膀胱をパンパンに張らしておいた状態で排尿すると、膀胱反射による血圧上昇機構は解除されるのに、血圧調節機構の働きでおこった末梢血管の拡張状態は、しばらく続いているために、排尿直後には急激な血圧低下をおこしやすくなっています。排尿中に武者ぶるいを覚える人がありますが、これは血圧低下を食い止める手段でもあるのです。

ときに排尿失神をおこす人もいるくらいです。この排尿による血圧低下は、男性に限ったことで、女性にはみられません。その1つの理由は、女性の排尿が、腰かけるか、かがみ姿勢であること、もう1一つは、女性は男性と違って、膀胱壁を張りつめるほどの尿をがまんすることができないためです。
この排尿時の血圧変動は、男性でも昼間はおこしにくいものです。昼間は、これほど極限まで尿をためることがないからです。冬、寒いトイレに起きるのが面倒くさいと思って、就床中に尿意をがまんし、ついにがまんしきれなくなった結果、トイレで事故をおこすというわけです。

危険を避けるトイレ対策

トイレで脳や心臓の事故をおこすのは、日本だけにしかみられません。これは、血圧の高い人にとって、排泄そのものが危険だという意味ではなく、排泄への工夫が足りないことを教えているのです。

尿意 を我慢して膀胱をい っぱ いにしておくと、血圧が上がります。この後、排尿すると、血圧が一気に下がります。この血圧の変動は、立ったまま放尿する男性に特に著しいものです。動脈硬化が進んでいる高齢者は、洋式トイレで腰かけて排尿したほうが安全です。

まず排便については、日本式のしゃがんでいきむというところに問題があります。しやがんだ姿勢では、いきみ動作で腹庄が大きくかかりますから、それだけ血圧の変動も大きいのですが、

洋式スタイルの腰かけ便器の場合には、これが防げます。つまり、腹庄をかけにくくすれば、いきみ動作のときの胸腔内圧増加が最小限度におさえられるので安全なのです。また、ふだんの食事の工夫などで、便がかたくなりすぎないように注意することもたいせつです。「脱・便秘」のための食物繊維の基本などが参考になります。

またトイレの保温が不可能であるかぎりは、寒い夜間のトイレ通いは避け、昼間の暖かいうちにすませておくよう、習慣づけるには、夕食後の飲水量を減らす工夫もありますが、いちばん悪いのは、寝室が冷えきっていたり、寝具が不適当のため、寝ているとき、からだが暖まらないで冷えてしまうことです。

からだを冷やすと、脳下垂体からの抗利尿ホルモンの分泌が減りますから、どうしても尿量がふえてしまいます。電気毛布などで就寝前に寝具を暖かくしておいたらいかがでしょうか。ただし就床時はスイッチを切るか、いちばん弱くするかしてください。こともたいせつです。寒い冬の時期の寝具などが参考になります。

夜間の排尿については、特に冬はシビンを用意して、寝室で用をたすようにするのが得策です。シビンも、むきだしにしないで、適当なカバーをかぶせるなり、ふたをつければ、けっして見ばえの悪いことはありません。

通勤

起床~家を出るまで最低1時間の余裕をとる

昔、戦に出る大将は、しかるべき儀式をすませ、心身ともに張りつめて出陣ました。江戸の職人も同様で、朝ぶろで心身をひきしめてから、その日のかせぎに出かけたものです。
こうしたことをしないとよい仕事なんてできるわけはありません。

朝、起床してから洗面、着がえ、食事、排便、朝刊へ目をとおす。こうした一連の朝の習慣をこれだけで1時間はたっぶりとってほしいのです。

理想をいえば、ふだんの運動不足を補うために、朝のジョギングや体操をする時間もとれれば尚いいでしょう。
目がさめてから胃が食事を受け入れるまでには、ある程度の準備時間が必要です。しかも食後20分ほどは、胃の消化活動のため、激しく動き回ることをひかえなければなりません。
つまり、朝、家を出てから、朝食まで20分、朝食に20分、排便に10分と計算すれば、もうこれだけで50分です。これをぎりぎりまで布団やベッドに入っていて、一刻も早く出勤しようとすると、胃が目をさましきっていないのに、無理に短時間で朝食をすますというはめになりますから、朝食の消化は悪いし、食べ残しをしたとなると栄養のバランスは狂ってしまうし、おまけにトイレ時間がなければ、急いでいきまなければなりません。日ごろ血圧の高い人が、朝からセカセカ、イライラでは、いったいどうなってしまうのでしょうか。

通勤時間には特に余裕をもつ

家を出てから、バス停までかけ足、駅の階段もかけ足というのは、食後30分もたっているのならいざ知らず、からだによいはずはありません。ゆっくりと余裕をもって歩きましょう。

マイカー通勤にしても、運転するだけで血圧が上がるものです。会社へ着くまでにストレスで身をけずったら、それこそ大損です。
要するに、通勤時間で5分、10分の差をかせぐためには、極端なストレスを受けるのです。むしろこの5分、10分は、就寝時刻や起床時刻でかせいでおくほうが、健康にはとても有利だということです。

7~8じ時間の睡眠が10分や20分短縮されたところで、健康に有害なはずはないでしょう。むしろ、出勤前のイライラのほうが、どんなに健康に、血圧に、そしてコレステロールに有害であるかなのです。

仕事

生理的リズムに合わせるのが最適

からだには、生体のもつ自然のリズムというものがあります。人間の活動能力を支配しているのは、交感神経や脳下垂体・副腎系の働きによります。
これが昼間は働いて夜は眠るという、ごく自然の生活習慣の場合にはどうなっているのでしょうか。これは、血液中の副腎皮質ホルモン( 血中コルチゾール) の量をはかるとわかります。

午前9時ごろが1日のうちでいちばん活動的な条件にあり、午後からは機能が低下しはじめ、睡眠中は最もリラックスしています。そして、朝、日がさめる2~3時間前から機能が急速に増加してきます。いっぼう血圧のほうは、副腎皮質ホルモンがいっせいに分泌している午前9時では、1日のうちでピークに達しますが、午後5時以降になると下がりはじめ、睡眠中はいちばん低くなるのです。

つまり、自然のリズムからいうと、午前9時から午後5時ぐらいまでが、最も生体は活動に適しており、この時間帯に仕事をするのが、いちばん能率が上がるというわけです。

同じ仕事をするなら、この能率よい時間帯を利用するのが得策です。それを、出勤して無駄に時間を費やし、「仕事がしきれなかったら残業すればよい」などとたかをくくっていると、あてがはずれます。

午後5時以降の生体の能率は低下してきますから、うまいぐあいに仕事が進むはずはないのです。それも無理をすれば、ストレスが加わりますから、副腎皮質ホルモンの分泌もふえ、血圧も上がり、そのときは仕事も片づくかもしれません。

ふだん忙しくて、勤務時間内に仕事が終わらず、残業の連続の人は、なれという現象でなんとかよい仕事もできることでしょうが、日ごろ残業になれていない人の場合は、こんな異常状態が2日も3日も続いたら、ストレスの塊でクタクタになるのは必定です。
要するに、1日の仕事は勤務時間内に終わるように、計画を立てて働くことが、健康にもよいのです。

肉体労働がきついとき

昔は、重労働をすると血圧が上がり、脳卒中がおこりやすくなると考えられた時代があります。それは、日本の農村地帯に高血圧や脳卒中が多発していたこと、特に脳卒中が多い秋田県の特徴の1つに、1人当たりの耕地面積が広いという点が注目されていたからです。

しかし現代流に考えれば、からだをよく動かしている人の血圧は低く、また同じ高血圧の人でも、運動訓練によって血圧が下がるということが知られています。
したがって、肉体労作業に従事するからといって、それ自体が高血圧や脳卒中をもたらすことはないのです。

欧米では、肉体労務者は心筋梗塞にかかりにくいという点を注目しています。ただし、労働が激しい場合は、食事のとり方に気をつけなければなりません。

多くの熱量をとらなければならないために、どうしても主食偏重になってしまい、栄養のバランスがくずれてしまいがちです。それに発汗が多いので、食塩を多めにとってしまうことも血圧には悪条件ですから気をつけましょう。労働量に見合うたんばく質を十分補給しさえすれば、からだは耐えられるのです。

ストレス・性格

少々の緊張でも血圧は上昇する

精神的にも肉体的にも、ストレスが加わると血圧は上がります。医師であれば深夜の電話ベルとか救急車の警報で実に神経がいらだつものですが、ウィーンフィルハーモニーの常任指揮者でもあっ方のお話によれば、新幹線の車内放送を知らせるオルゴールが、音楽家の神経をさかなでするそうです。

ネコはネズミの声にいきり立つし、イヌは自分以外の尿臭を電柱でかぐと興奮します。そういうわけで、ほかの人には気にならないことが、自分には気になる、イライラするということが多数あります。

そしてこういったときの血圧は当然のことながら上昇するわけですが、ふだんそんなに気にさわるという問題でもないのに、精神的に緊張すると、それだけで血圧は上がります。

たとえば、買い物のときのお釣りの暗算とか、気がねする人と会話を交すときがそうですが、ふだん血圧が高い人ほど、そのときの血圧上昇は大きいのです。

ストレスをおこしやすい性格

同じ強さの刺激でも、ストレスをおこしやすい人と、そうでない人があります。A型性格がストレスに弱いことがよく知られています。しかし実際に高血圧の人をしらべてみると、必ずしもA型性格の人が多いというわけではありません。

それにしても、A型性格の人はストレスを受けやすく、ノルアドレナリンという興奮性のホルモン分泌がふえます。これは血圧を上げ、コレステロールをふやすだけではなく、血液の凝固性も高めまこうそくすから、心筋梗塞にかかりやすいと警告されています。

一般に医師はA型性格が多いのですが、同じ医師でも、ストレスが多い専門科医ほど心筋梗塞にかかることがイギリスで調査ずみです(たとえば、皮膚科・整形外科医より、麻酔科・外科・内科医のほうが心筋梗塞にかかりやすい)。

ストレスは発散がポイント

もともとの性格はそう簡単には変えられるものでありませんが、日常、上手にストレスを解消して、リラックスすることがたいせつです。
ゴルフ、釣り、酒、子供と遊ぶ… …など、人によってさまざまでしょうが、要は、のんびり、ゆっくりとした気分になれる時間を長くもつことです。特に、ふだん血圧が高い人は、会議の最中でも、深呼吸や手首の屈伸運動など、緊張ずくめの気分をちょっとでもほぐすことを考えましょう。
昼休みはソファーに横になってもよし、また好きな音楽を聞くこともよいでしょう。親しい友人と冗談を交すのも一方法です。緊張のしっばなしでは、血圧も上がったままで、それだけ身を蝕むはめとなるのです。

A型について

同じ強さの刺激でも、せっかちなA型性格の人ほどストレスをおこしやすく、ノルアドレナリンという興奮性のホルモン分泌が盛んになります。このホルモンは、血管の緊張を高めて、血圧を上げます。またストレスは、コレステロールもふやします。

暑さ

脱水状態は血栓をつくってしまう

高血圧は冬の寒冷が危険だということは常識です。それなら夏は安心かというと、実はそうではないのです。
脳卒中や心筋梗塞という病気が冬にふえるのは当たり前ですが、こういった病気は夏でも発生しているのです。心臓血管系の病気で命を落とす人が寒い季節に多いことは、国際的な常識でもありますが、ただここで例外が1つ知られています。
それはオーストラリアのシドニーで、心筋梗塞で亡くなる人が、冬に比べて夏のほうが多いのです。オーストラリアは赤道の南側にありますから、日本をはじめ欧州やアメリカの気候と夏冬が逆になっていますが、そういう意味ではなくて、シドニーでは、実際に寒い季節よりも暑い季節のほうが心筋梗塞をおこしやすいのです。これはどうしたことかというと、シドニーの冬は暖冬ですごしやすいのですが、夏は酷暑そのもので、このために脱水傾向になります。その結果、血液がこくなり、血液が凝固しやすくなって、血栓症を合併するからなのです。つまり、冠状動脈の血栓症が心筋梗塞につながるというわけです。
それでは、南太平洋やアフリカも気候はシドニーと同じですから、心筋梗塞が夏に多いはずだと考えられますが、実はそうではないのです。

というのは、心筋梗塞という病気は、栄養がよすぎてコレステロール値の高い国民はかかるものの、栄養の悪い開発途上国の人たちはかからないからです。
クーラーが普及していないころの日本で酷暑の夏を迎えたことがあります。このときは、夏だというのに、高齢者がひんばんに脳血栓や心筋梗塞に襲われました。これは高齢者が環境変化に対する順応性の低下のため、暑さで脱水をきたしたからなのです。

カリウム不足に要注意

また、汗にはナトリウムやカリウムも含まれていますが、このカリウムの放出が心筋梗塞の引き金となります。カリウムは、筋肉の細胞内に含まれて
いて、筋肉の収縮に関与していますが、真夏に、大量の汗といっしょにカリウムも流れ出て、心臓の筋肉内にあるカリウムが減ってしまうと、心筋梗塞に襲われるというわけです。

カリウムは、いつもナトリウムと手をとり合って体外に出ていく性質をもっています。したがって、利尿降庄薬を長期に服用している患者さんは、積極的にナトリウムを体外に出すと同時に、カリウムも外に出してしまうので要注意です。カリウムを含んでいる野菜やくだものを努めてとりましょう。

クーラーや冷房の冷気にも注意をはらう

もう1つ夏に気をつけたいのは、クーラーです。皮膚に強い刺激が加えられると、血圧は急上昇します。戸外の熱気から急にクーラーの冷気に身を包まれると、これが強い皮膚刺激となり、血圧を上げてしまうのです。

特に夏は、皮下の毛細血管が冬に比べて拡張しており、毛穴が広がり、汗を出して熱を放散させやすい状態にあります。そのからだを、自然のしくみに逆らって無理に冷やすために、水分その他の代謝のバランスがくずれてしまいます。
これは健康な人にとってもよいわけがありません。まして、健康な人より高血圧の人ほど冷気に弱いのですから、いっそう気をつけなければなりません。
さらに、動脈硬化が進んでいる高齢者の場合には、血管が弱っているのでなおさらのことです。クーラーが効きすぎた状態というのは、外気温との差が五度以上ある場合です。寒い部屋に長くいるとそのうちからだがなれてしまいますが、初めに震え上がるほどの冷えを感じたら、冷えすぎです。暑い外気にふれて家に帰り、いきなりクーラーの前で涼むなどということのないように注意します。オフィスや会社で冷房が強すぎて帰宅すると暑いというのは血圧が変動するので注意しなければなりません。
からだは、入ってくる水分と出ていく水分が均等になっています。温和な気候下で安静な生活をした場合、1日にどうしても必要な水分は、不可避尿400mlと不惑蒸泄900mlを足した1300mlで、これを補わないと脱水状態になってしまいます。
外出でもしようものなら、1500mlほど汗をかきます。汗の分だけ飲水量をふやせば問題はありませんが、高齢者では、のどの渇きを覚えにくいので、うっかりすると脱水状態をおこします。また、高齢者の腎臓は尿をこくする機能が低下しているために、不可避尿の量も多めに必要ですから、特に水分の補給には気を配ってください。

寒冷

高血圧の敵「寒さ」

個人個人の血圧は、高い人もあり低い人もありますが、同じ人でも、血圧は夏に低く冬に高いものです。仕組みは、冬期は皮膚が寒冷刺激にさらされるからです。もともと皮膚が刺激を受けると、交感神経が興奮して血圧を上げるのですが、この刺激は、疼痛でも、熱湯でも、寒冷でも変わりがありません。
しかし冬は、急に寒い環境にさらされやすいので要注意です。

寒さのために末梢血管が収縮し、血管の抵抗が大きくなって、血圧が上がってしまうのです。それと同時に、血液の凝固性も高まりますから、脳や心臓の事故はどうしても冬におこりがちとなります。

寒さから身を守るポイント

部屋全体を温め適温に
冬は、部屋全体を20度前後に暖めるように工夫しますよく、コタツだけで身を縮めている人がいますが、これでは下半身だけしか暖まらず、上半身は冷えきった環境におかれているのです。
このため肩や首すじの血液循環が悪くなり、肩がこったり、頭痛がおこったりしがちです。部屋の温度が奪われるのは窓と床面ですから、窓にはカーテンを二重に引き、床面はふかふかのじゅうたんを敷くとよいでしょう。
これは熟の不良導体である空気の層で、保温効果を高めるためです。なお、私たちのからだは急激な五度以上の温度差に弱いので、冷えきった廊下などに出るときは、全身の保温に十分注意し、子供のように素足で廊下を歩くような無精なまねはしないことです。
外出のときは、防寒を心がける
特に体温が奪われやすいのは胴体です。ふだん露出している顔面や指先などは、皮膚温が低いのですが、胴体の皮膚温は高いので外気温との差が大きく、それだけ幅射熟として体温が逃げやすいものです。したがって外出のときは、面倒がらずに、重ね着で空気の層を幾重にもつくるなり、防寒に気を配りましょう。
特に胴体に近い首すじや大腿部をカバーしないと、からだはすぐ冷えきってしまいます。ふだん露出になれている手先も、酷寒の際は手袋をし、また、マフラーの着用を忘れてはいけません。それから、冷たい空気を吸っただけで冠状動脈が収縮することも知られていますから、特にこがらしの季節には、マスクがたいせつです。
なお、飲酒後は、皮膚の血管が開いて皮膚温が高まっていますから、それだけ体温は奪われやすくなっています。宴会からの帰宅時には特に防寒を心がけます。
洗面はお湯で
4度の水に手を突っ込んで、どのくらい血圧が上がるかをみる寒冷昇庄試験という検査があります。これによると、ふだん血圧が高い人は、正常血圧の人より著しく血圧が上昇します。
特に寒い冬の洗面や食器洗い、ぞうきんがけなどは十分に注意してください。冷たいのをがまんして水を使うと、血圧は30~40mmHgも上がります。しかもこの血圧上昇は急激ですから、脳や心臓の動脈硬化を合併している場合は、危険きわまりないのです。

できれば夜の排尿は溲瓶で行う
せっかく熟睡して、血圧も落ち着いていたのに、尿意を催して目がさめることがあります。ふだん血圧が高くない人でも、年をとると腎臓機能が低下しますから、昼はあまり尿が出ないのに、夜間安静にしていると、腎臓の機能が活発になってきて、どうしても1~2度は起きるようになるものです。これが夏なら話は別ですが、冬で家屋がいちばん冷えきっている時刻に、トイレに起き出すというのは、血圧の揺さぶりで事故をおこす原因となりかねません。
また、男性の場合は、排尿で急激な血圧低下をおこすこともあり、これがとで脳血栓をおこしたり、失神したりすることもあります。ですから、冬の夜間の排尿は、シビンを使うのが安全です。これを面倒くさがっていると、綱渡りと同じで、いずれ事故をおこしましょう。

生活をする上で重要な6項目

  1. 減塩
    減塩は高血圧治療の基本です。日ごろ大量の食塩をとりすぎる日本の食習慣にならされている以上、ここは、なんとしてでも食塩を減らす努力が必要です。これによって降圧薬の使用量が減れば、それだけ副作用の心配も減るし、また一方で、血圧の予期しなの上昇が防げるのです。
  2. 運動不足に注意
    運動不足の人は、ちょっとした動作で容易に血圧が上がってしまいます。また、体重がふえて高血圧を増悪させるだけではなく、血液の凝固性を克進させて血栓が生じやすい危険もあるのです。努めてからだを動かしましょう。
  3. 禁煙
    喫煙によるニコチンや一酸化炭素は、粥状硬化症の進展に拍車をかけますから、たとえ血圧を下げておいても、心筋梗塞をおこす危険があります。またすでに冠状動脈硬化がおこっている場合は、タバコを吸って遊離脂肪酸をふやしただけで心筋梗塞が発生します。
  4. 肥満に注意
    太りすぎは巷苅物ていると降圧薬が効きにく〈ストレスを飼いならすそれだけ大量の薬を使う必要が出てきます。また肥満すると、血清のコレステロールや中性脂肪がふ、え、糖尿病も発生しやすくなります。これらは粥状硬化症の進展に拍車をかけるもとです。さらに肥満体の血圧は不慮に上昇しやすいというぐあいに、まったく悪いことずくめです。
  5. ストレスに注意
    人は社社会生活をしている以上、ストレスを避けて通るわけにはいきません。ストレスを受ければ、血圧はいつになく上昇するし、コレステロールもふえます。要は、ストレス解消法を身につけ、一刻も早く自己のペースをとり戻すことです。こうすれば、血圧を上がりっばなしにしないですむのです。
  6. 血圧を揺さぶらない
    特に脳や心臓に動脈硬化症を併発している場合は、血圧が不意に上がると、脳卒中や心筋梗塞をおこす危険が大きいのです。これは、ふだんの行状が大きく関係してきます。過労、寝不足、不摂生など、心あたりのある人は、重々注意してください。